米カリフォルニア州の排ガス規制とEVブーム

9月23日、米カリフォルニア州のニューサム知事は、2035年までに州内におけるガソリン車やガソリントラックの販売を停止すると発表した。今後、州内で販売される新車は排ガスを出さない「ゼロエミッション車」にするよう義務付け、これにより温室効果ガスの排出を35%減らすとしている。

今回提案された規制は、ガソリン車の所有や中古車市場での販売を禁止するものではないが、一般的な車の回転率を15年程度とすると、2050年頃にはほとんどのガソリン車がカリフォルニア州内の道路から消えることになると言う。

約4000万人の人口を抱えるカリフォルニア州は、米国の中でも特に環境に対する感度の高い州であり、2年前には州内で使われるエネルギーについて、2045年までにクリーンで再生可能なエネルギーを100%にするという法案を州議会で可決している。ガソリンの車やトラックは、カリフォルニア州における温室効果ガスの半分以上を占めているとされており、この目標を達成するための最大の障害となっていた。

ご存じの通り、2020年カリフォルニア州では大規模な山火事が発生し、過去18年間で最も深刻な被害を及ぼしている。専門家は、「気候の自然な変化と温暖化による高温・乾燥化した状態が重なることで、激しい山火事が起こる」としているが、トランプ米大統領は山火事の原因は「土地管理の問題」とし、このような専門家の見方を一蹴している。

カリフォルニア州は気候変動に対処するため、自動車に対して大胆かつ野心的な立場を取ったと言える。国とは一線を画す今回のカリフォルニア州の動きは、追随する他の州を巻き込みつつ、脱ガソリン車の流れを一気に進展させることになりそうだ。

カリフォルニア州は米国最大の自動車市場であり、毎年約200万台の新車が販売されている。これはカナダやイタリアと同程度で、英国の230万台をわずかに下回る水準である。日経新聞の記事によると、2019年の販売台数は約190万台で、米国メーカーのシェアが30%に対して、トヨタ自動車やホンダなどのシェアが47%と半数近くを占めている。一方、電気自動車とハイブリッド車の占める割合は7%程度だったと言う。各社の勢力図も今後大きく変わることになるであろう。

自動車の排ガス規制は欧州が進んでおり、欧州連合(EU)は2021年にも大幅な二酸化炭素(CO2)排出削減を求める新規制を本格導入する。また、英国はガソリン車やディーゼル車の新規販売を2035年に禁止すると表明したほか、フランスも2040年までに同様の規制を設ける方針である。

世界的な環境規制が強まる中、自動車メーカー各社は新たな規制に対応した製品を開発しようと躍起になっている。ニューサム知事の発表と同じ日に、世界最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンが、新たな電気自動車「ID.4」の発表を行なった。米国では2021年初めにも販売される予定で、価格は3万9,995ドル~とテスラの「モデル3」(現在3万7,990ドル~で販売)を上回る価格となっている。

ただし、2022年からテネシー州にあるフォルクスワーゲンの工場で現地生産が開始される予定で、米国内で生産が始まれば、価格は3万5,000ドル程度にまで下がると予想されている。またフォルクスワーゲンは、米国に加え、中国と欧州でもID.4を生産すると言う。

テスラ(TSLA)がけん引し、リードしてきた電気自動車(EV)市場では、これからも続々と新車種が発売されることになりそうだ。フォードは2020後半にマスタングの電気自動車を発売する予定とのこと。テスラ株の大幅な上昇もあり、2020年の株式市場はEVブームに湧いている。世界中のあらゆる自動車会社がテスラに追いつけ追い越そうとしのぎを削っている。

このため、EV関連と名前が付けば、投資家の注目を集め、多額の資金が流入してきている。お金の集まるところには詐欺的な動きも出てくるのは世の常である。EV市場にも同様の動きが見られているのは、まさにEVが一大ムーブメントになっている証であろう。

テスラの背中を追う既存の自動車メーカー

19世紀中期から20世紀にかけて偉大な業績を収めたセルビア系米国人の物理学者で発明家のニコラ・テスラは、電気とエネルギーに関する研究で有名だ。テスラは長距離の送電を可能にしたほか、無線通信やエネルギー伝達についての研究で知られている。

フォーブスの記事「イーロン・マスクも尊敬する天才、ニコラ・テスラの偉業」によると、1880年代後半、トーマス・エジソンは直流送電を中心としたシステムを提案したのに対して、テスラは交流送電を推進し、エジソンと敵対したとのこと。さらに「その後、テスラはジョージ・ウェスティングハウスから研究費100万ドルと特許使用料を提供され、エジソンとの「電流戦争」に圧勝し、一躍時の人となった」と書かれている。

イーロン・マスクのEVメーカー「テスラ」の社名は、このニコラ・テスラにちなんでつけられたものだと言われている。マスクはニコラ・テスラの信奉者としても知られている。ファミリーネームを採用したテスラに対して、ファーストネームの「ニコラ」を使ったのが、水素電気トラックのスタートアップ企業ニコラ(NKLA)である。

ニコラはナスダック上場企業であるが、SPAC(特別買収目的会社)を利用して上場するなど、その出自からして不可解であったことは否めない。Crunchbaseの記事「2020 Is The Year Of The SPAC(2020年はSPACの年)」によると、2020年は記録的な数のSPACが上場しており、すでに約362億ドルの資金調達を行ったと言う。これは、2019年の年間136億ドル、2018年の年間108億ドルを大幅に上回っている。

すでに株式市場に上場しているSPACと合併することで、上場審査に伴う煩雑な手続きを経ることなく上場が可能となる反面、工場を建設中でまだ市場に出せるトラックを生産していないようなニコラでも上場企業としてデビューすることが可能になる。(このSPACブームについてはまた別途お伝えしたい。)

9月初め、ゼネラルモーターズ(GM)はそのニコラと戦略的パートナーシップを締結したと発表した。GMがニコラの株式11% (約 20億ドル) を取得し、自社の水素燃料電池とバッテリー技術をニコラに提供するという内容であった。ニコラが提供するのはトラックの内装などのみ、まだ市場に出ている商品を持っていないニコラが開発推進しているとされている技術は一切使われない。

その提携発表から2日後、ヘッジファンドのヒンデンブルグ・リサーチがニコラに関する報告書を発表した。そのレポートでヒンデンブルグは、ニコラの試作トラックが「動いている」ところを紹介したマーケティング動画についての指摘を行い、機能していると思われていた車両が、実際にはステージの下に隠された電源コードに差し込まれていたという記者会見の様子を暴露した。

ニコラは当初、ヒンデンブルグの報告書は「虚偽であり中傷」だと反発していたが、それから間もなくして、創業者で会長のトレバー・ミルトンが辞任し、証券取引委員会と司法省による調査が行われることになった。ヒンデンブルク・リサーチのレポートで指摘されていたように、動力のないトラックを丘の上まで引っ張っていき、坂道を下りながら転がるトラックの様子をビデオ撮影したことを認めたのである。

ニコラは、GM元副会長でニコラ社の取締役会メンバーでもあるスティーブン・ガースキー氏がミルトンの後任として会長に就任することを発表した。GMは、今回の一連の疑惑にもかかわらず、ニコラとの協力関係を継続していくとしている。

テスラは自動車生産台数ではGMやトヨタ、フォルクスワーゲンには及ばないが、市場での評価は今や他社を圧倒している。

【図表】自動車メーカーの時価総額推移
出所:筆者作成

GMはニコラのトラックを使って、自社の燃料電池やEV技術を証明するとことにしたのであろう。今回のニコラとGMの提携が明らかにしたのは、GMのような巨大自動車メーカーが、テスラに追いつこうと必死にあがいていると現状だと見られる。

なぜ、テスラは市場の圧倒的な評価を集め続けているのか?

カリフォルニア州の規制が発表される1日前の9月22日、注目されていたテスラの「バッテリー・デー」が開催された。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、カリフォルニア州フリーモントの屋外で7月から延期されていた株主総会と同時開催された。会場にいた株主は、テスラの車に乗ってドライブインのようなスタイルで、時折クラクションを鳴らして熱狂を表していた。

そのバッテリー・デーでテスラのイーロン・マスクCEOはEVの価格を大幅に引き下げ、完全な自律走行性能を持つ価格2万5,000ドルのEVを3年以内に製造すると発表した。現在、テスラの最も安価な車種、モデル3は3万7000ドル台で販売されているから、それを1万ドルあまり下回る価格設定となる。

投資家はこの「バッテリー・デー」において、テスラから2つの大きな発表があることを期待していた。1つは寿命が10年以上の「ミリオン・マイル」バッテリーの開発と、EV車の価格をガソリン車より抑えるための具体的なコスト削減目標だったが、今回どちらも発表されなかったことから、投資家の失望売りを誘う結果となった。

しかし、競合相手が必死にテスラに追いつこうと躍起になっている中、先行するテスラの勢いは止められそうにない。既にテスラは、完全な垂直統合を目指し、バッテリーの設計・製造に至るまで、すべてを自社内でまかなうことやオートパイロットへ向けた動きを加速させている。

7月7日付コラムでもご紹介したように、今後のテスラの成長の大きな鍵を握るのは、中国市場と環境規制の2つである。中国においては上海のギガファクトリーで生産されたモデル3が初めて納車されるなど、工場の着工からわずか1年で順調な滑り出しを見せている。週に1,000台程度の生産台数を将来的には、年間50万台まで生産ペースを高める計画である。

テスラの売上は「Automotive sales(電気自動車の販売)」、「Automotive leasing(電気自動車のリース事業)」、「Energy generation and storage(エネルギー発電と貯蔵製品)」、「Services and other(サービス、その他)」の4つに加え、もう1つ重要な収益源の「Regulatory Credits(規制クレジット)」がある。

米国の自動車メーカーは規制によってゼロエミッションの車を一定の割合で販売することが義務づけられている。販売が規定数に達しない場合、自動車メーカーは違反金を支払うか、他のメーカーから余剰クレジットを購入する必要がある。それが規制クレジットである。

テスラが生産する車は全てがゼロエミッションであるため、テスラは相当量の規制クレジットを確保しており、これをGMやフィアット・クライスラーに販売している。この規制クレジットは、コストがゼロであり、売上がそのまま利益となる、まさに「打ち出の小槌」である。

7月に発表されたテスラの2020年第2四半期の収益は約60.4億ドルであったが、そのうちの約7%にあたる4.28億ドルが規制クレジットの販売によるものであった。2020年にはその規制クレジットの販売による収益が前年比で2倍になるとの見通しだ。この規制クレジットがなければ、テスラはGAAPベースで黒字を確保することはできなかった。

テスラがS&P500種株価指数の構成銘柄に採用されなかった背景には、この規制クレジットの販売を除くと赤字になっていたことによるという指摘もあるようだ。しかし、それはテスラを従来の自動車メーカーという枠に当てはめて理解しようとしており、誤りだと筆者は考える。気候変動に対する意識が高まる中、テスラが行っていることは単に自動車を製造して販売するということではなく、自動車を通じて時代が求める新たなエネルギー社会を作り出していくことである。

とかく規制は企業にとって成長を阻害する要因になることが多いが、テスラの場合は世界的な規制強化が追い風となっている。前述したように、欧州では排ガス規制がさらに強化される。また一大市場である中国においても2025年以降、新エネルギー車の販売割合を現行の5倍程度まで引き上げることが検討されている。テスラの株価はEVブームによって過剰評価になっている面は否めないが、EVシフトへ向けた大きな波はもう止めようのない潮流になっている。

石原順の注目5銘柄

今回はテスラ、自動車部品メーカーのアプティブ、さらには既存の自動車メーカーの状況を確認するためにGM、フォード、フィアット・クライスラーの株価チャートを見ておきたい。

テスラ(ティッカー:TSLA)
出所:トレードステーション
アプティブ(ティッカー:APTV)
出所:トレードステーション
ゼネラルモーターズ(ティッカー:GM)
出所:トレードステーション
フォード・モーター(ティッカー:F)
出所:トレードステーション
フィアット・クライスラー・オートモービルズ(ティッカー:FCAU)
出所:トレードステーション

日々の相場動向については、ブログ「石原順の日々の泡」を参照されたい。