限定的なものにとどまるだろう。「アベノミクスの終焉」を材料にした売りは今日の初動で出尽くしたか、週明けに海外からの売りがあっても短期で収束するだろう。その理由は、日本の株式市場を動かす要因の大半はグローバルな経済環境であり、日本の政権が変わってもグローバルな経済環境への影響は大きくないからである。無論、政治や政権の安定は株価の材料になる。ただ、あくまでもその政権、政府による政策が経済をどう動かすかを市場が評価して株価が動く。

ではアベノミクスは日本経済にどのような影響を与えたのだろうか。アベノミクスはその開始直後こそセンセーショナルに迎えられた。安倍首相自身がNYで「Buy My Abenomics」と売り込む姿は印象的だった。まさにトップセールスだった。僕自身、そのころ出張していたNYで財務省の官僚がアベノミクスの説明でヘッジファンドを訪問しているところに何度も鉢合わせしたものだ。

しかし、アベノミクス3本の矢で本当に日本株が上がったのだろうか。日銀の異次元緩和は確かに一定の効果はあっただろう。黒田総裁は最初の記者会見で「2年程度で2%インフレを達成する、そのためにマネタリーベースを2倍に、日銀が買う国債を2倍に引き上げる」と公約した。「2年・2%・2倍」で市場を驚かせた。しかし、これだけ緩和をおこなってもインフレにはならない。それは世界的な現象だから日銀だけを責めるわけにはいかないが、当初の狙いが達成されていないことは事実だ。

それでもアベノミクスの実質1年目の2013年、日経平均は56.7%と41年ぶりの上昇率を達成した。この上昇率は日経平均算出来、歴代4位の記録である。アベノミクスで確かに株価は高騰したように見える。しかし、実際には2012年12月が景気のボトムでそこから景気回復が始まっていた。2012年12月の総選挙で第二次安倍政権が誕生したから、景気が底打ちしたのはアベノミクス始動前のことだ。ではどうして日本の景気は反転上昇に転じたのか。グローバル景気が反転上昇したからである。

緑:グローバル製造業PMI、青:日本景気動向指数(一致)、赤:日経平均
出所:Bloomberg

第二次安倍政権の発足はたまたまグローバル景気が反転上昇に転じるタイミングだった。それを背景に日本の景気も回復した。東日本大震災~民主党政権末期の停滞感のあとに開けた景気回復である。景気も相場も一気に祝祭的なムードに包まれた。それがアベノミクス1年目のインパクトを大きなものにした背景であった。このあたりのことはすでに2013年1月に「幸せなマリアージュ」というレポートに書いているので参照されたい。一部を引用しよう。

<アベノミクス自体は、正しい方向を向いた政策であり、今後も着実に実行されることを期待したい。株式市場 もそれを好感してここまでの相場上昇となってきたが、筆者の主張はアベノミクス期待だけで株が上がった、 あるいは今後も上がるというわけではないという点である。 重要な点は、アベノミクスが、グローバル景気回復と同時に併存する、そのカップリングの妙にある。それを 「幸福なマリアージュ」と呼んでいるのだ。(中略)グローバル景気回復という大きなバックグラウンドがあって、日本は政策を大転換、デフレ脱却を目指し、円高も是正される。この「幸福な結婚」、「諸条件のマリアージュ」が日本株ラリーの根底にある。>

グローバル景気とそれに伴う世界の(なかでもFRBの)金融政策が日本株にとっての最大要因であることは変わりがない。政権が変わっても、日銀の金融政策がそれだけを理由に大きな方向転換するとは考えにくい。本日のストラテジーレポートで述べたように、コロナの終息の兆しも見え始め、景気回復が鮮明になるなか、超緩和的な金融政策が長期にわたって維持される。株式市場にとってフェイバーなこの環境は次の政権への贈り物である。

これを享受するばかりではいけない。日本の株式市場が長期的なトレンドで上昇するためには構造改革を進め、生産性を高めていくことが肝要である。本来、長期政権に期待される役割はその点だが、それは次の政権に残された大きな課題と言えるだろう。