これまでの連載の中で、アクティビストの活動内容が変わってきていることを繰り返しご説明してきました。特にお伝えしたいのは、アクティビストが短期的な利益を追求し、かなりの株数を保有することで数の力をもって対象会社の資産を奪おうとする姿勢から、中長期的な株価の上昇のため、一定の株数は保有するものの他の株主や経営陣と連携し、その会社の成長を促そうという姿勢へと変わりつつあることです。後者のアプローチの場合、他の株主の賛同を得ることが特に重要になります。
そうした活動の天王山が株主総会であるといえるでしょう。ご存じ通り、日本の会社の多くは3月末に本決算を行い6月に株主総会を開きます。株主総会の議案の多くは取締役会を通じ、会社側が提示します。一方、一定の議決権を有する株主は「株主提案権」という株主総会の議案を提出する権利を有しています。その議案を株主総会の招集通知に記載するため、通常は株主総会の8週間前に、株主はそれらの株主提案を行う必要があります。そのため、6月に株主総会を控えた5月は株主提案が多数見られます。多くの個人投資家の方にも議決権行使書が届いているはずです。今年はぜひその中身をよく読んでみてください。
感染症の影響で株主総会のスケジュール自体が流動的ではあるものの、この5月にもいくつもの株主提案が発表されています。どういうものが出ているかを見ていきましょう。まず気づくのは本連載でも取り上げた、建設会社への提案が多いことです。世紀東急(1898)、安藤ハザマ(1719)、淺沼組(1852)、佐藤渡辺(1807)といった会社が株主提案を受けたことを開示しています。
提案した株主や提案内容の詳細は様々ですが、多くの提案は「資本効率の向上」とまとめてよさそうです。アベノミクスと呼ばれる日本の経済政策のもと、東京五輪開催の決定もあって、日本の建設会社の利益水準はここ数年非常に大きくなっています。その利益は配当や自社株買いなど株主還元にも活かされていますが、会社の内部留保となった部分も多く、結果的にどの会社も自己資本が大きくなっています。
上記の4社は直近5年で1株あたり株主資本が2倍程度となった一方、同期間に売上水準はあまり変わっていません。つまり、事業規模は大きく変わらないのに、会社の自己資本は大きくなっているわけです。そうであれば、大きくなった自己資本を株主に還元するか、その資本を用いて新たな成長戦略を打ち出してほしいという主張は合理的に見えます。本連載で建設会社へ投資している個人投資家の方にアンケートを行った際も、内部留保を行うよりは成長投資か株主への配当を希望する声が多く寄せられました。
今年の株主総会に向けた株主提案の中で注目したいものがあります。それは、JR九州(9142)です。同社には昨年(2019年)に続き、ファーツリーというアクティビストが株主提案を行っています。昨年の総会ではファーツリーの提案への賛成票も少なくなく、今年の動向も注目です。次回はJR九州への提案について詳しく見ていきたいと思います。