新型コロナウイルスの猛威はなかなか沈静化しません。読者の皆さまも引き続き健康管理にご留意くださいませ。自分のためにも、また自分が誰かを感染させることのないためにも、です。
さて、株価面では前回のコラム冒頭で「潮目の変化を感じる」「強気相場は、悲観の中に生まれる」と書いたところ、幸いにもこの直後から日経平均は直近安値から15%程度上昇となりました。ひとまず相場は少しずつ落ち着きを取り戻してきたというところでしょうか。
ただし、新型肺炎の影響はより混沌としており、実体経済への影響は(かなり株価に織り込み済みとはいえ)まだ完全に読み切れてはいません。前回はやや強気にあった筆者の見方ですが、当面はまだ上値を追っていくタイミングにはないというスタンスで臨みたいと考えています。
村田製作所は短期保有型、京セラは長期保有型
さて、連載コラム「アナリストが解説、会社四季報データ」では、直近3回にわたって自動車業界における同業他社比較を行ってきました。そこで今回は、電子部品業界にその焦点を移し、同様の比較を試みてみましょう。
電子部品業界もまた、自動車産業に勝るとも劣らない日本を代表する産業です。ただし、電子部品そのものは最終製品ではなく、あらゆる部品を手掛けるような総合部品メーカーも日本にはほぼ存在しないという点で、自動車業界とは異なります。
つまり、一般人からは製品群がよく見えず、しかも特定領域に特化したメーカーがほとんどであるため、単純化して業界を大きくイメージすることが難しい業界なのです。これらは会社四季報には書かれていない情報ですが、銘柄研究にあたり、こういった構造を予備知識として持っておいていただければ、会社四季報をより有効活用できるのでは、と考えます。
ここでは、電子部品業界の雄とも言える京セラ(6971)と村田製作所(6981)を例にとって考えてみましょう。例によって、まずは上段に記載されている株価チャートを確認します。最新の四季報(2020年春号)によると、過去3年半、京セラ、村田製作所の株価は共通して上げ下げしながらも趨勢的に若干、上昇傾向にあることがわかります。
しかし、よく見ると、村田製作所の株価は短期間での変動が激しく、京セラは上昇局面も下落局面も比較的長い目のトレンドで推移していることが確認できます。このことから少なくとも近年は、村田製作所では細目に利益を確定していく投資スタイルが有効であった一方、京セラでは腰を据えた長期保有型の投資スタイルが機能していたと言えるでしょう。
コンデンサ依存度の違いが株価推移特性の違い?
同じ電子部品業界に属しながら、臨むべき投資スタイルは異なるのです。これは非常に興味ある現象です。何故そうなっているのか、会社四季報からその原因を想像してみましょう。
筆者は、この差は両社の売上構成の違いが原因ではないかと考えました。会社四季報のページ右端に記載されている会社概要欄をチェックしてみると、両社ともコンデンサ大手との記載があります。その中で、村田製作所の売上構成はほとんどがコンデンサ関連で占められる一方、京セラは多角化経営を標榜してコンデンサ以外の製品も手広く手掛けていることが確認できます。
このことを踏まえると、両社のコンデンサ依存度の違いにより、自動車やスマートフォン、PCや通信基地局といった最終製品の見通し変化がそれぞれの株価に異なったインパクトを与えているのではないか、と推察できるのです。
この推論が正しければ、(売上構成が劇的に変わらない限り)両社の株価推移の特性は当面変わらないと予想できます。とすれば、電子部品業界でどちらかを選択するという比較においては、まず投資家個々人が得意とする投資スタイルに合った方を選択するべきという判断になると考えます。
業績拡大局面では村田製作所の魅力度が増す
では、どちらが割安か、という視点ではどうでしょう。来期見通しを基準としたPERを見れば、(来期見通しはかなり不透明ですが)両社とも20倍前後といった水準で並んでいます。業績を基準とした見方では特にどちらが割安(割高)ということはなく、両社とも同じような期待値にあるといって良いかもしれません。
しかし、下値の底堅さを測る配当利回りでは、村田製作所の1.6%に対し、京セラは2%を越える水準にあり、(減配がないとすれば)京セラに分があるように思えます。一方、付加価値の捻出力を示す営業利益率を見てみると、村田製作所は15%程度が見込まれるのに対し、京セラのそれは7%程度に留まります。
このことは、業績面では村田製作所の方に底堅さ(あるいはアップサイドの大きさ)があることを示唆しています。特に業績拡大局面においては、村田製作所の投資魅力度が増すこととなるでしょう。
こうしてみると興味深いことに、株価推移のアプローチも、割高割安を考えるアプローチも、結果的にほぼ同じ結論に辿り着いているように思えます。時に株価は思惑などの影響が大きいと思われがちですが、誰が指示するわけでもないのに「実はかなりロジカル」に株価は形成されていることも確かなのです。筆者は、市場が自ずと有しているこの合理性というものを非常に面白いと感じています。