新型肺炎のインパクトは強烈でした。筆者はその影響をかなり慎重に見ていたつもりでしたが、それは想像を遥かに超えるモノであったと受け止めています。依然として感染者の増加は世界的に続いており、先行きを楽観できる状況にはありません。我々に現在できることは、引続き健康管理に留意することに尽きると考えます。

しかし、一方で筆者は潮目の変化も感じてきています。状況の悪化は続いていますが、後手に回っていた感のあった政府や企業の対応が、徐々に巻き返しへとシフトし始めてきたように見受けられるためです。既に日経平均で直近高値から3割を超える調整となりました。株式市場はかなり厳しいファンダメンタルズを織り込んできているようにも思えます。

未曽有の事態でもあり、過去の事例がそのまま通用するとは思えませんが、「強気相場は、悲観の中に生まれる」という相場格言を今こそ再認識しておきたいと思っています。

キャッシュフローを業績の先行指標と位置付ける

さて、今回も、前回前々回に引き続き、具体的な企業を例に同業他社比較を試みます。前々回ではトヨタ自動車(7203)とホンダ(7267)を例にそれぞれの株価の動きを、前回はやはりその両社を投資対象として捉える際の分析視点を、会社四季報のデータ(のみ)からどう解釈できるか解説しました。

今回は株価や投資とは少し距離を置き、会社四季報データから会社の状況把握を試みたいと思います。

筆者が企業の状況把握をする際のチェックポイントはキャッシュフローです。「金融は経済の血液」という言葉をお聞きになったことがあるかもしれません。

どれほどビジネスが順調でも、お金が回らなければ黒字倒産に至ることもありますし、どれほど決算上は赤字になっていても、キャッシュが回っている限り企業は潰れません。お金をどれだけ回せているかを確認しておく必要があると考えるのは、そういった視点に基づくものです。

これは本コラム基礎編でも詳述した通りです。そして、お金を潤沢に回せるということは、先行投資余力の拡大や不況時の抵抗力強化にも繋がります。株価は業績(見通し)に理論上リンクしますが、その業績のある意味で先行指標になるのがキャッシュフローだと筆者は位置付けています。

>>(財務欄の基礎編はこちら)会社四季報「財務」欄で企業の「健康状態」を把握する

トヨタ自動車のフリーキャッシュフローが大幅に増加している

今回も、トヨタ自動車とホンダを例にとってみましょう。この両社でキャッシュが回らなくなるような事態は到底想像できませんが、前々回前回の結論と比較しながら考えていただければ色々繋がって見える部分も少なくないのではないかと考えます。

最新版(2020年春号)の会社四季報によると、直近期のトヨタ自動車の営業キャッシュフロー、つまり費用を差し引いて本業で蓄積できたキャッシュ(稼ぎ)は前年度で3.77兆円でした。

これに対し、設備投資など将来のために使った投資キャッシュフローは2.70兆円です。差し引き1.07兆円が会社の自由に使えるキャッシュ「フリーキャッシュフロー(FCF)」として手元に残った計算になります。これはかなりの規模と言えます。しかも、括弧内に記載されている前年のFCFも確認すると0.55兆円ですから、大幅にFCFが増加していることがわかります。

一方、ホンダの営業キャッシュフローは7,800億円、投資キャッシュフローは5,800億円、差し引き2,000億円のキャッシュがFCFとして手元に残っています。もちろん、これも十分に潤沢な規模と言えますが、前年のFCF 3,700億円との比較では減少となっています。

このFCFは配当などの株主還元に使っても良いですし、借入金返済や運転資金の積み増しといった使い道もあります。自動運転や電気自動車といった新技術を将来開発する際の投資の原資としてもカウントできるかもしれません。いずれにしても、FCFが潤沢に手元に残るという状況は、企業にとって経営基盤の強化や多様な選択肢を検討できる余力を持つという意味で非常に重要です。

新型肺炎の影響は現時点では読みきれませんが、こういった余力があることは企業の逆境への抵抗力を示しているとも考えられます。両社をこのFCFといった切り口で比較してみると、余力や趨勢という点で現時点ではトヨタ自動車に軍配が上がるということになるでしょう。

会社四季報に記載のない最新状況でホンダの趨勢がわかる

ただし、これは会社四季報に記載のないデータとなりますが、現在進行期の第3四半期累計のキャッシュフローを見ると(これは各社ホームページ掲載の決算報告から探すことができます)、トヨタ自動車のFCFは2,000億円となっているのに対し、ホンダは1,700億円と大きくその差を縮めてきていることが確認できます。直近のホンダの趨勢は要注目と捉えたいところです。

この例からも明らかなとおり、重要なのは、会社四季報のデータを見るだけではなく、その後に必ず最新の状況を(面倒でも)ご自身で調べるということです。あくまで会社四季報は入口のツールであることをお忘れなく。