2020年1月7日~1月10日に米国ラスベガスで開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー2020(CES2020)に参加する機会を得ました。

CESは世界で最も大きく、影響力を持っているテクノロジーイベントだと言われています。今回参加して感じましたが、CESは好奇心旺盛な大人にとっては、わくわくする未来の大人にとってのおもちゃの展示会のようなもののようです。

2019年のCESでは、4,500超の会社が展示を行ない、世界中から18万人が参加しました。CESの展示会場はラスベガス市内に複数あり、会場間を朝7時20分から大型のシャトルバスが常時動き回って移動できるシステムになっています。会場のスペースを合計すると東京ドーム6個分くらいの広さのようです。

このCES、ラスベガスで開催されるイベントの中でも、最大級の年間イベントの1つになっており、開催時期はホテルの部屋代が最大10倍以上になるとホテルのスタッフから聞きました。

3年後に空飛ぶタクシーがいよいよ実用化?

CESで数多く展示されている製品の中で今回の私が1番素直に感動したのは韓国の現代自動車とウーバーが発表した空飛ぶタクシーです。

世界的に都市化の流れがあり、大都市における混雑ぶりは今後も悪化する一方とみられています。そういった中、混雑の解決策の1つとして近未来技術を活用するのがUAM(アーバン・エア・モビリティ)というコンセプトです。

つまり、まだ使われていない都会の空を活用し、その空間で空飛ぶ乗り物に人を乗せて移動させようという考え方です。それを可能にしてくれるのがeVTOL(垂直離陸)機となります。正に私が子どもの頃に見たテレビ番組に出ていた未来のシーンが現実のものとなります。

斬新なスタイルのプロトタイプのデモと、将来空飛ぶタクシーがどのように使われるかをビジュアル的にとても上手に説明した動画が、数多くの参加者の注目を集めていました。

eVOTL機は、既にボーイングやエアバスも開発中で、既にテスト飛行を行なっています。今回は自動車会社がライド・シェアの最大手ウーバーと組んで、エアタクシーが実際にどのように私達の生活を変えていくかをとても分かりやすく説明したことで、将来の移動のイメージがわかりやすくなっています。

しかも、今回の発表には空だけでなく、地上での自動運転タクシーもセットになり、将来スマート化していく私たちの街で空と陸の両方を使った将来の移動がイメージしやすくなっています。

ただし、実際にこのような乗り物がいつ実用化されるのでしょうか。その場にいたスタッフによると、2030年くらいを計画しているとのことでしたので、実際にこの夢のある乗り物に乗れるのはまだまだ先のようです。

その一方、より近いうちに乗れる未来の乗り物を発表したのが、米国未上場でテキサス州に本社を置くヘリコプターメーカー、ベル社のNexus Air Taxi 4EXという小型エアタクシーです。

この4EXは、時速最高約240キロで、4〜5人の乗客とパイロットを乗せて、1回の充電で最長111キロの距離を飛行できるそうです。ベル社の垂直リフト技術により垂直に離着陸できるため、一定の広さがあればどこでも使えるようです。

出所:筆者撮影

同社によると、この小型タクシーは自動操縦を視野にいれて設計されていますが、今の段階ではパイロットがいない乗り物を世間は容認しないだろうということで、当面はパイロットが操縦することになりそうです。 会社のスタッフに聞いたところ、実用化には早ければ3年ほどで営業が可能ではないかということです。

ソニーが電気自動車をサプライズで発表!

自動車の分野で参加者の目を最も引いたのは、多分私たち日本人が最も驚いたソニーの電気自動車のビジョン‐Sではないでしょうか。「安全、エンターテイメント、適合性」にフォーカスしたと言われています。

出所:筆者撮影

「安全」については、全部で33のセイフティ・コクーンと呼ばれるセンサーが活躍してくれます。車の外部に設置されたセンサーは周りの環境や障害物を360度で確認し、車内のあるセンセーは運転手が居眠りをしそうになった際などにアラートできる様になっています。

「適合性」では、車両のサスペンショの硬さ、ステアリングの重さ、軽さ等の記録をクラウドに上げ、天候、路面の状況に合わせて最適なセッテイングが、その人に合わせてできるようになっています。

その際にはデータのやり取りには5G回線を使い、ソフトウエアも常時アップデートされるそうで、車の機能も常に最新のものが使え、乗れば乗るほど運転手になじんできて、その人好みになるという世界を目指しているそうです。

私はCESのソニーの展示会場で、幸いこのモデルカーの内部を見せてもらう機会を得ました。中に入るとすぐさま今までの車にはない未来感を感じさせる車でした。

出所:筆者撮影

パノラミックスクリーンと呼ばれるスクリーンは、正に運転席が包み込まれるような感覚を演出しています。ドアミラーの代わりにサイド・カメラを使っており、カメラに写る映像を両端のモニターで見ることができるようになっています。間接視野の中で視点の移動をなるべく少なく、左右の車両の接近を把握できる様に工夫がされています。

「エンターテインメント」は、ソニーが長年築き上げた技術が発揮される分野です。内部に搭載された「360 Reality Audio」とよばれる360度サラウンドスピーカーは音の迫力が違います。比較した従来のステレオも十分にいい音を出しているのですが、新しいモードに変えるとボーカルの声が身近に聞こえる様になっています。

全てのフィーチャーをここで紹介できないのは残念ですが、約2年間ごく一部の社員により秘密裏に開発されたビジョン‐S、ソニーならではのクリエィティビティ満載の未来の車となっています。

歯ブラシやおむつで提供するテクノロジーの「体験変革」

私たちにとって身近な消費者向けの製品は、センサーを利用するIoT、モノのインターネット的な製品が散見できました。

電動歯ブラシは決して新しいコンセプトではありませんが、プロクター・アンド・ギャンブル(NYSE:PG)のブランドの1つであるOral-Bは、スマート歯ブラシの進化版を発表しています。

このスマート歯ブラシは、従来型の電動歯ブラシをより静かにするのと同時に、歯のどの部分をみがいたか教えてくれるセンサーが入っており、AIによるコーチングで歯の全体を満遍なくみがけるようになっています。また、このセンサーは歯をみがく力が強すぎる、または強過ぎないかも教えてくれます。

出所:筆者撮影

コルゲート・パルモリーブ(NYSE:CL)は、コルゲート・プラクレス・プロという電動歯ブラシの同じく進化版を発表しています。この歯ブラシ付属のセンセーは歯垢検査を行ってくれるようになっており、歯垢が取れたかどうかを教えてくれるようになっています。会社によると、この機能が歯医者向けでなく、一般消費者向けに付いたのは初めての事だそうです。

P&Gの大きなブースの一部では、生まれたばかりの赤ちゃんの面倒をみる親をサポートするP&Gとアルファベット(NASDAQ: GOOGL)の子会社と共同で開発したベイビーケアシステムのデモを行なっていました。

P&Gのブランド製品の1つであるおむつのパンパーズに今回開発されたセンサーをつけることで、赤ちゃんの睡眠時間を調べたり、おむつが濡れて交換が必要になると両親のスマホにメッセージを流してくれたりする機能が付いたアプリを開発しました。

このシステムには赤ちゃんをモニターする高感度カメラが付いており、両親は離れていてもスマホアプリで赤ちゃんの様子の確認ができますし、カメラにはスピーカも付いているため、離れた場所から赤ちゃんに話かけることができます。

またこのセンサーが集めた赤ちゃんの生活のリズムのデータをもとに医者がアドバイスをする事もできるそうです。

このカメラ、センサー、専用のおむつ10日分のセットは349ドル(約38,390円)です。米国P&Gの専用サイトで販売されており、現在は米国内限定ですが、日本でも発売されれば、日本人の新しいお母さんやお父さんの育児のサポートになることは間違いないでしょう。

出所:筆者撮影

イタリアの高級スポーツカーメーカーのランボルギーニのウラカン・エボは、スーパ・スポーツカーで最初にアマゾン(NASDAQ:AMZN)のアマゾンエコーを搭載したと発表しました。これにより、運転手は運転中に車内の温度、ライト、運転席のシートの温度の調整を音声で操作することができます。

こちらもアマゾンのスタッフのご厚意で車内を見ることができました。スタッフは、高速運転中に運転手が目を外すことなく、音声で様々なコマンドをコントロールができるのは非常に便利だと説明します。

「アレクサ」と呼びかけることで、電話をかける、行き先を確認する、音楽を聴く、オーディオブックを聞く、ニュース、天気予報を知るなどはもちろんのこと、コネクテッドホームと連携することで、車庫の開閉から、家の電気のオン・オフや、温度調整も車内から行うことができるのです。

また、ランボルギーニの車内から、ラスベガスにあるベニハナレストランの予約をするデモもやっていただきました。これは、アマゾンエコーからブッキング・ ホールディングス( NASDAQ:BKNG)のオープンテーブルのサービスを呼び出す事で可能となります。

テクノロジーが視覚や聴覚の不自由をサポートする

2018年のアクセンチュアの報告書のアンケートでは、75%の回答者が健康関係、健康管理の為にテクノロジーは重要な役割を果たすと答えています。

CES2020で展示では、目の見えない人や、難聴の人にとって今までなかった世界を提供する製品の説明を行っていました。世界4.66億人の人がなんらかの難聴の問題を抱えているのだそうです。

カナダのHeardThatは、機械学習のアルゴリズムを使い、ノイズと人間の声を聞き分け、騒音の中から人間の声だけを抽出する技術を開発しました。人間の声だけをブルートゥース経由で、耳元のヘッドセットへ送ってくれるようになっています。

この様なことができるようになったのは、機械学習の技術の向上、より質の高いデータの増加、トレーニング用の高度なGPU開発、に加え、スマホを誰でも持っている世の中になったからだということです。

また、視覚に問題を抱える人に向けて、文字を音声で読み上げるオランダのEnvisionというサービスもあります。これはスマホにアプリをダウンロードしGoogleグラスをかけると、Googleグラスに付属しているカメラで見える文字情報をEnvisionの技術により、音声で読み上げてくれるというものです。目の見えない人にとっては、今までなかった世界が展開します。

技術の進化は著しく、必ずしも良い側面だけではないものも、今まで考えられなかった技術が間違いなく私たちの生活を便利なものにしてくれる、今私たちはそんな夢のある世界に今いるのだということを強く確信させてくれたCES2020訪問でした。