妻が人気だという洋服屋の株価が上がる?

10月にマネックス証券に入社し、動画やセミナーのアンケ―トでお客様の米国株投資についてご意見をうかがう機会がでてきた。その中で気になったのは、米国株に投資をしていない理由として「アメリカの会社はなじみがない」「アメリカの会社はよくわからない」というようなコメントだ。

なるほど、日本の会社は日本の会社だから親しみがあるが、海の向こうの会社は外国の会社だからなんとなくよくわからないということだ。その考え方、感覚的には直にそうだなと同感してしまいそうだ。だが、よく考えてみると本当にそうなのだろうか?このトピックスを触れるにあたり、ある本で読んだ例え話を思い出した。

アメリカにフィデリティ・インベストメンツ社のマゼラン・ファンドという、1980年代に投資の世界で一世を風靡した投資信託がある。そのファンドを有名にしたのが1977年から1990年までファンドマネジャーを務めたピーター・リンチだ。その時代に米国で株式投資をしていたアメリカ人に、彼のことを知らない人はいないであろう。

彼が著した『One Up On Wall Street』(邦題:ピーター・リンチの株で勝つ アマの知恵でプロを出し抜け)という書籍がある。

その書籍で紹介されていた、リンチの友人のハリー・ハンズスーツ(仮名)と妻のヘンリエッタという夫婦の話を思い出した。ハンズスーツ家の投資の責任者はハリーであり、ヘンリエッタはビジネスやお金には音痴ということになっている。

ハリーは有料の株式情報ニューズレターを購読、そこで紹介されていたウィンチェスター・ディスクドライブという小型株に興味を持った。彼は彼なりの調査を一生懸命行い、一家の貯えをこの銘柄の投資に回すべきだと考えた。

そんな時、買い物から帰ってきた妻のヘンリエッタは、ザ・リミテッドという新しい女性服店がすごい人気なのだとハリーに話す。店は大混雑で、販売員は親切、しかもバーゲンで安かったから、娘の秋用の服をみんな買ったのだと。

ハリーにとってそんな話はどうでもよい。彼にしてみると、家にこもって銘柄の研究をしている間に、ヘンリエッタが買い物で浪費していることが気に食わない。彼女が経験したザ・リミテッドの話など気にもせず、いかに彼の投資のアイディアが素晴らしいか自慢する。

この話のその後の展開は想像していただけるだろう。投資の責任者として意地をかけてハリーが研究し、投資をしたウィンチェスター・ディスクドライブの株は、業界の競争が予想以上に激化、業績が悪化し、株価は10ドルから5ドルへ下落。一方、ヘンリエッタが気にいった洋服屋のザ・リミテッドの株価1979年12月の50セント(株式分割の調整済み)から1983年には9ドルまで上がったという落ちだ。

リンチは言う。人はかえって何も知らないわかりにくい会社への投資のほうが安心していられるような変な投資家心理があると。まるで近所にある会社なんかはつまらないから避けて、見たこともないような商品を生産している会社を探した方が良いと言っているかのようだと。

あのウォーレン・バフェットも、自分がわかるビジネスにしか投資をしないと豪語する。

私たちが日本の生活で「なじみがあるアメリカの会社」10選

ここで、「アメリカの会社はなじみがない」の話に戻る。

だが、本当にそうなのだろうか?私たちが日本に住んでいて毎日世話になっているアメリカはあるだろうと。そんな視点で思いつくままアメリカの会社をリストアップしてみた。

  1. 皆さんは会社に出社すると、最初に何をするだろう。多分自分のデスクのパソコンの電源を入れるのではないだろうか。そうすると最初にでてくるのは、マイクロソフト(NASDAQ上場:MSFT)のOSであるウインドウズである可能性が極めて高い。
  2. そのパソコンに入っているのは、テレビのコマーシャルで有名になった「インテル入ってる」のインテル(NASDAQ上場:INTC)の半導体チップの可能性が高い。
  3. 私の前職では、社内の電話はIP電話で、その電話機やシステムを作っているのは米国企業のシスコシステムズ(NASDAQ上場:CSCO)だった。電話を使う度にシスコのロゴを見ていたのを覚えている。
  4. 友人と話す、メールを送る、使うのはアップル(NASDAQ上場: AAPL)のiPhoneだ。表参道のアップルストアも常に混んでおり、商品を買うのも待たされる。
  5. そのiPhoneで調べ物する際、手伝ってくれるサーチエンジン、知らない先への行き方を教えてくれるマップのアプリを作っているのがグーグル(アルファベット、NASDAQ上場: GOOG)だ。
  6. 近所の宅配の配送トラックに必ず積み上げられているのがアマゾン(NASDAQ上場:AMZN)の箱だ。同社は日本の日曜の夜の伝統的なテレビ番組の「サザエさん」のスポンサーの枠を取り、日本のお茶の間に浸透してきている。
  7. 「出かけるときは忘れずに」というとクレジットカードのアメリカン・エクスプレス(NYSE上場: AXP)
  8. 炭酸飲料水だけでなく、ジョージア缶コーヒーでも人気を誇るコカ・コーラ(NYSE上場: KO)
  9. 弊社があるビル1階のスターバックス(NASDAQ上場: SBUX)は朝、昼と常に列ができている。並ぶのが嫌な私はスタバのコーヒーを飲む機会がなかなかやってこない。
  10. 週末に散歩の途中に入ってみた原宿のナイキストア。ランニングシューズのナイキ(NYSE上場: NKE)商品の人気を感じる。原宿という場所柄もあるのだろうが、外国人の観光客も含め大変な混雑ぶりだ。店員に聞いてみると基本開店からずっとこんな調子だという。

これらの会社は、私たちが常日頃から接点があるアメリカの会社10社を恣意的にリストアップしてみた。選んだ根拠は特にない。単に私の頭で思いついた会社を羅列したものであり、株価のリターンを意識して選択したわけではない。

「親しみのある米国銘柄10社」ポートフォリオのリターンは5年間で135%

だが、その後果たしてそのように選んだ銘柄のパフォーマンスに興味があったので早速調べてみた。それら10銘柄を同金額投資したとした場合のリターンと、同期間のS&P 500指数と比較したのが図表1のチャートである。

期間は2015年1月2日から今年の11月22日までの約5年間で、配当金なしの株価だけのリターンだ。結果はというと、この間S&P 500指数が51%に対し、この「親しみのある米国銘柄10社」ポートフォリオのリターンはなんと135%という結果になった。

この10銘柄のうちの最高のリターンはアマゾンの466%で、最低のリターンはコカ・コーラの26%であった。10銘柄のうち8銘柄がS&P 500のリターンを上回っていた。親しみがあるといいう理由で選んでみたものの、選んだ方法は先ほどのヘンリエッタ的な発想だ。

【図表1】「親しみのある米国銘柄10社」のリターンとS&P 500指数
(2015年1月2日~2019年11月22日)
出所:筆者作成

実際、株式投資は、ヘンリエッタの例にあるように、自分で体感して良いと思ったサービスを提供し、買いたいと思う商品を作っている会社に投資をするのがうまくいくことが多い。

株式投資のチャンスは意外と我々の身近にあり、それは日本の会社とかアメリカの会社とか国境は気にしなくてもよいのではないだろうか。こんな気楽な投資の方が以外と上手くいくのだという検証となった。