急速に萎んだインバウンド期待

昨年2015年は「爆買い」という言葉に代表されるように訪日外国人観光客による消費が日本を席巻した。政府は2020年に年間の訪日外国人観光客数を2000万人とする目標を立てていたが、2015年の1年間で1973万人とほぼ目標を達成したことから、今年5月に目標を4000万人に倍増させた。
ところが急速に進んだ円高などを背景に、かろうじて増加基調は続けているものの、訪日外国人の増加ペースは明らかに鈍っている。グラフ1は訪日外国人客数全体と前年同月比の推移を示したものだが、前年からの増加率は2015年8月の63.8%でピークアウトし、足元は10%台の伸びにとどまっている。中でも中国人観光客数の鈍りが著しい。10月の訪日外国人客数は213万人、うち中国人客数は50.6万人と約四分の一を占めている。グラフ2に示した中国人観光客数と増減率の推移で、一時は前年同月比150%の増加率を記録している時期もあったが、10月はわずか13%増と完全に伸びがストップしてしまっている。

また、観光客増のペース鈍化とともに消費の勢いもしぼんだ。グラフ3に示したように、四半期ごとに発表されている訪日外国人の消費総額は昨年の7-9月期に前年同期比80%以上の大幅増となり、消費総額は1兆円を超えていた。ところが直近の2016年7-9月期は消費総額9717億円と1兆円を割り込み、前年同期比2.9%減と減少に転じてしまった。

高い期待を集めて上昇していたインバウンド関連銘柄もインバウンド失速を受け冴えないパフォーマンスとなった。グラフ4は百貨店、家電量販店、ホテル、鉄道、航空会社とインバウンド関連業種の代表的な銘柄の株価を、昨年末を100としてTOPIXと比較したものだ。いずれの銘柄も年初来パフォーマンスがTOPIXを下回っており、インバウンド期待の剥落が株価にも如実に表れている。

外部環境が大幅に変化 業績堅調な出遅れインバウンド株は

ところが、ここへきてインバウンド銘柄にとって逆風だった外部環境に変化の兆しが表れている。言わずもがな円安の進行だ。グラフ5に示した米ドル円は1ドル100円どころから一時113円台まで進んだ。また、グラフ6の人民元/円も1人民元15円といったところから16円台半ば近くまで円安に振れた。昨年一時1人民元20円を超えていた際と比較するとまだまだ円高水準ではあるが、今後現在の円安水準で推移また一段の円安進行があれば再びインバウンド関連銘柄業績の追い風になる可能性は高い。さらに、中国人に次いで訪日観光客数の多い韓国の韓国ウォン/円も円安に振れている。これらの円安進行は訪日外国人の増加や消費拡大に今後じわりと効いてくるとみられる。

そして、そもそも前述したように「訪日外国人観光客の大幅増加」は国として明確な目標を持って推し進めている「国策」である。今後も政府はビザ発給資格の緩和など様々な観光客増のための施策をうってくるだろう。「国策に売りなし」という相場格言もあるように、今後出遅れているインバウンド関連銘柄にも再び上昇のチャンスが訪れるのではないかと考えている。ただし、インバウンド関連ということなら猫も杓子も上昇した昨年とは異なり、今回は銘柄の選別が進むだろう。

それではどのような銘柄が選好されるのだろうか。やはり競争力が高く今後も着実な業績の伸びが期待できる銘柄ではないか。そうした銘柄を見極める上で、今年に入ってからの円高進行の逆風期にも好業績を達成した銘柄を探すことが本当に成長力の高い銘柄を見極める上でのヒントになるかもしれない。

今回は航空関連、鉄道、宿泊、家電量販店、百貨店、ドラッグストアといった主要なインバウンド関連業種のうち足元までの3四半期がいずれも増収増益な銘柄をスクリーニングしてみた。詳細なスクリーニング条件は以下の通りである。今後の投資の参考にしていただきたい。

スクリーニング条件
・航空関連、鉄道、宿泊、家電量販店、百貨店、ドラッグストアのいずれかのビジネスを行っている
・直近の四半期を含めた3四半期の売上高および営業利益がいずれも増収増益