2007年の8月に起きたパリバ・ショックから今日で丸9年が経つ。その時、市場で吹き荒れたファクターリターンの逆効き現象については、こちらのブログに詳しく書いたのでご参照いただきたい(Dance with Market 「9年前」)。
現在は、当時ほどではないにせよ、局所的には強烈なファクターリターンのリバーサルが起きている。ファクターリターンのリバーサルとは、これまで効いていたファクターが有効性を失い、反対にこれまで効かなかったファクターの効果が現れることである。
代表的なものを挙げよう。これまでは、過去のリターンが良いものがずっと買われてきた。つまり順張り相場が続く中で、モメンタムが出ている銘柄のパフォーマンスが良かった。ファクターリターンでは「過去1年リターン」というファクターに効果が出ていたが、これが反転している。
一方で、バリュー系のファクターはこれまでまったく効果がなかったが、ここへきて買われ始めた。通常、バリューファクターが効くのは春までのことだ。クオンツの世界では、「春はあけぼの」ならぬ「春はバリュー」というのは常識である。「夏蕎麦は犬も食わない」ならぬ「夏はバリューは効かない」のである。おそらく、3月の本決算発表のタイミングと関係があるのだろう。業績に注目が集まる春は、ファンダメンタルズの王道ファクターであるバリューが効くが、夏の今頃発表になる決算は、まだ第1四半期ということもあって普通は注目されない。つまり、この時期の業績情報は信頼感が低いから、それに基づくバリューの効きが悪いのではないかと考えられる。
ところが今年の第1四半期の決算発表は例年とは違った。7/21付レポートで書いた通り、<円高で大幅減益>という見た目の悪さで盲目的に売られるのではなく、ちゃんと中身の改善を評価した買いが入るようになった。この第1四半期決算で円高の影響は織り込んだようだ。であるとすれば、今のバリュエーションのもとにある業績に対する信頼度は例年より高い。それが「バリューの逆襲」のひとつの背景ではないか。
今起きているのは「バリューの逆襲」であり、「グローバル・シクリカル(外需景気敏感)の逆襲」である。これまでの相場を支配してきた「最少分散投資」というスマートβの流行、マイナス金利で買えなくなった債券の代替としてのディフェンシブ株投資、そうした流れが反転している。その結果、ファクターリターンのリバーサル現象が広い範囲で起きている。
問題は、何が理由で、そしていつまで続くかだ。明らかなのは、日銀の金融政策決定会合はこのファクターリターンの修正の原因ではないということだ。多少はこのリバーサルの動きを助長する影響はあったかもしれないが、本質的な要因ではない。なぜなら、ファクターリターンの反転は日銀会合より前、ちょうど1カ月前の7/8を起点としているからである。
7/8に何があったか。米国で6月分の雇用統計が発表された日である。非農業部門の雇用者数は前月から28万7千人増えた。前月の改定値が1万1千人だったから驚異的なリカバリーであり、17万人程度を予想した市場予想も上回る大きなサプライズだった。発表当日は、そのデータをどう解釈していいか市場も消化不良だったようだ。米国株こそ上昇したものの、為替と金利の反応は気迷い気味だった。
しかし、振り返ってみれば7/8が米国長期金利のボトムであった。米10年債利回りはそこから20bps超上昇している。
米国の長期金利はグローバル景気の温度計のようなものだ。これが上昇したことで景気不安が後退した。だからディフェンシブ株や低リスク株ばかり追い求める流れに変化が生じたのだろう。割安に放置されたグローバル・シクリカル(外需景気敏感)を拾ってもいいという機運が生まれたのだろう。
結局、アメリカの景気次第という身も蓋もない話だが、株式の相場というものは、突き詰めればそういうことである。
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