前回のレポートで「底打ち確認」とした米国株は、多少下に振れても大丈夫だろう。①ダブル底、②半値戻し、③一目均衡表の雲を上抜け、とこれだけ明確な底入れシグナルが出ており、よもや三番底を探りにいくとは思えない。
一方、日本株の戻りは鈍い。上記、米国株について挙げた点のどれも未達である。そうこうするうちに、再び下値模索の展開となっている。
この差は何によるものか。発射台が違うといえばそれまでだ。米国株は年初から全然上がっていなかった。それに対して日本株は8月半ばまで高原状態が続いてそこから急速に下げてきた。悪材料を織り込む時間が相対的に短いために結果として底打ちが先延ばしになっているのかもしれない。
業績の下方修正が目立ち始めたのは、ここ1カ月余りのことだ。但し、業種によっては差があり、製造業はいち早く業績悪化を織り込んできて、目先下方修正も一巡の兆しがある。今月下旬からちょうど4-9月期の決算発表シーズンを迎えるが、それに先立って業績悪化を織り込んでいるとすれば、ダウンサイドへの備えはできている。ネガティブ・サプライズが減って、ポジティブ・サプライズへの反応が大きく出るだろう。
問題はそれまでを耐え凌げるか、という点である。
昨日の米国市場は、低調な小売売上高、ウォルマートが業績見通し下方修正で大幅安、ベージュブック(地区連銀経済報告)のドル高懸念表明などを受けて、株安、ドル安、債券高(金利低下)となった。僕にとってショックだったのは、10年債利回りが、前回のレポートで「鉄板のようだ」と喩えた2%の水準を割り込んだことである。雇用統計下振れでも割らなかった2%を下回った。米国の労働市場は悪くない。それは前回のレポートで解説した通りであり、だからこそ長期金利は低下しなかった。そのように振る舞う、世界でもっとも効率的なマーケットである米国債券市場が正しい判断を下しているとすれば、昨日の小売売上高の統計は、結構ショッキングだったと言える。
と、一応、あまりにも強気一辺倒だった姿勢を、ほんの少しだけ修正してみせたが、実は全然弱気になっていない。前回レポートの最後で、<私が確かに人より優れている点は、私が間違いを認められるところです。それが私の成功の秘密なのです>というジョージ・ソロスの言葉を引いたところ、多くの読者から「お前も謙虚になったらどうだ!」とお叱りを受けたので、ほんの少しだけ、懸念を表明してみせた、という次第である。
まず小売売上高だが、このところの相場変調を考えれば消費者心理が悪化するのは当然だろう。米国は家計の金融資産に占める投資関連商品の割合は高いので資産効果が大きい。小売りデータの中身をみれば、そんなに悪化していない。伸びたもの鈍化したものまちまちである。全体で前月比の伸びが鈍っただけで前年比では2.4%伸びている。それに、そもそも単月のデータでうんぬんするべきものではない。これまで何度も「小売売上高ショック」と騒いできたことを忘れたのだろうか。そのたびに、その後力強い米国消費のパワーを見せつけられてきた。
ウォルマートの業績下方修正も、ドル高の影響とIT投資などによるコスト増が主因である。売上の「量」が落ちるというシナリオではない。
昨日の米国債利回りの低下は、これまで世界株安のなか突っ張ってきた反動と、金価格急騰の影響だろう。NY金先物は昨日200日移動平均を上回った。このリスクオフ・トレード、テクニカル的な動きに過ぎないと思う。
鈍くて弱くて脆い日本株。まったくもって、だらしない限りと嘆いてきたが、今日の動きは見直した。昨日の米国市場の悪い雰囲気を断ち切って、朝安の後、切り返して反発している(午前10時現在)。材料がない、どころか悪材料だらけのなかの反発、これこそ先行して下げてきたゆえの自律反発である。自律反発できるというのは、相場がまだ機能している証拠だ。
今月下旬から始まる決算発表で業績の堅調さを確認すれば日本株は戻る - それがメインシナリオである。
もう一度繰り返そう。問題はそれまでを耐え凌げるか、という点である。
最大の焦点は来週月曜日、19日に発表される中国の7-9月期GDPである。今回は6.8%程度の伸びとなろう。それを受けたマーケットがどんなリアクションをするか。「やっぱり7%成長は無理だった」と悲観的に捉えるか。あるいは、「やっと中国政府も7%割れを認めた、これで景気対策に動くだろう」と前向きに捉えるか。
いずれにせよ、7%割れの数字に冷静に対応できるかどうか。先進国の株式市場の成熟度が試される。