一足早く夏休みをとって米国西海岸カルフォルニアに行ってきた。大昔にアルバート・ハモンドが唄った『カルフォルニアの青い空』の原題は、"It Never Rains In Southern California"、直訳すると南カルフォルニアに雨は降らない。実際はそんなこともなく、雨も降るのだが、なんといっても湿気というものがないのは確かである。だから、帰国してこのうだるような、湿り気を伴った猛暑がなおさら堪える。

発見その1 日本人がいない

当方、娘がまだ小さいので、海外旅行と言ってもテーマパーク巡りに終始した。ユニバーサル・スタジオ、ディズニーランド・パーク(今年、開園60周年)、そのお隣にあるディズニー・カルフォルニア・アドベンチャー、そしてサンディエゴにあるシーワールド。あとはお決まりのハリウッドにあるチャイニーズ・シアターなど、これだけ観光地を回って、ひとりも日本人を見かけなかった。そのかわり、例えばユニバーサル・スタジオの来園者の30%は中国からの観光客。30%が中南米から。30%が白人・黒人合わせた米国人、残りがその他の人種・国籍のひと...といった感じだ(あくまでも印象だが)。

なぜ日本人観光客がいないのか。為替が円安だから海外旅行に行く人が減っている。米国でもハワイやニューヨークはまだ人気があるだろうが、ロサンゼルスはクルマがなければどこにも行けないのでそもそも敬遠されがちだ。これだけ円安になると、いくらディズニーランド・マニアでも、60周年だからといってもアナハイムのディズニーランドに行く気にはならないだろう。

カルフォルニア・アナハイムのディズニーランド、入場料は99ドル。約1万2000円である。一方、東京ディズニーランドは6900円。ほぼ倍の開きがある。誰に聞いても東京ディズニーランドのクオリティは世界一だという。アトラクションなどのハード面、園内の美しさ、スタッフのホスピタリティ、パレードやショーの水準の高さ、どれをとっても素晴らしい。その世界一の品質を誇る東京ディズニーランドの入場料が、世界で一番安い。円換算すると上述の通り、カルフォルニアのディズニーランドの入場料は1万2000円、ユーロ・ディズニーランドが約1万円、香港のディズニーランドでも8000円近い。世界一の品質を誇るディズニーランドの入園料が、世界で一番安いなら、世界のディズニーランド・フリークたちは東京に来る。少なくとも中国をはじめとするアジアのひとたちは、カルフォルニアのディズニーランドに行くインセンティブはないだろう。

ビッグマック指数というものがある。マクドナルドで販売されているビッグマック1個の価格を比較するものだ。たとえば日本でビッグマックが250円、アメリカで2ドルのときは、250/2=125となり、1ドル=125円 がビッグマック指数となる。現在は日本で370円、アメリカで4.79ドルだから370/4.79=77で1ドル=77円である。

これと同様にディズニーランドの入園料を比べる「ディズニーランド指数」があったとすれば、日本の6900円に対してカルフォルニアが99ドル、6900/99=69円70銭となる。

ビッグマックとディズニーランドの値段からすれば、1ドル=70円程度が妥当ということだ。もちろん、日本の財のバスケットはハンバーガーとテーマパークだけではないから、1ドル=70円の円高に戻ることはあるまい。為替レートを通じた価格調整がなされないとすれば、世界一のクオリティを持つ東京ディズニーランドの入園料は、入園料そのものの値段が上がって価値を等価とするのだろう。

結論1:インバウンド消費は落ちない

日経新聞の月曜経済観測でANAホールディングスの片野坂真哉社長が訪日客について語っていた。
「非常な好調が続いている。今年4-6月期にANA機に搭乗した外国籍の乗客数は前年同期比7割以上伸びた。海外から日本を訪れるインバウンド観光客の増加が話題になって久しいが、頭打ちする気配はなく、伸び率はここにきてさらに上向いている」とのこと。特にすごいのが中国からの訪日客だ。

「中国の人の日本旅行ブームがそう簡単に冷え込むことはないとみている。上海株が動揺したときも、それで日本旅行をやめたり、いわゆる『爆買い』を控えめにしたり、という動きはなかった。仮に今後為替が少々円高方向に振れても、影響はほとんどないのではないか。美しい自然やきめ細やかなサービス、買い物の楽しみなど日本旅行は魅力満載で、これからも多くの中国人を引き寄せると思う」

ここまでインバウンドが伸びた理由を問われて片野坂社長はこう答えている。
 「観光振興は省庁の垣根にとらわれない、政府挙げての取り組みが実を結んだ貴重な例だ。観光分野を所管する国土交通省だけでなく、査証(ビザ)の発給条件の緩和では法務省が、免税店の拡充では財務省が柔軟に動いた。以前は『日本は無線LANがつながりにくい』という苦情が多かったが、総務省などの尽力で整備が進み、2年程度で状況が大幅によくなったのも素晴らしいと思う」
残念ながら、それは本質論ではないと思う。訪日観光客の増加やインバウンド消費の背景は、一にも二にも円安がその理由である。美しい自然やきめ細やかなサービス、無線LANのつながりやすさ - そんなものは二の次だろう。

日本は安いのである。何を買っても世界一安い。これだけのクオリティのものが世界一安い値段で手に入る。これが絶対的な理由である。ちょっとやそっとのことでは、この流れは止まらないだろう。この流れを止めるものは、為替が円高に戻るか、そうでなければ日本国内での中国人入国規制論の高まりであろう。ホテルの予約が取りにくくなっていてビジネスにも多少ながら支障が出始めている。事実、香港やパラオ共和国では中国人の入国に制限をかけている。

銘柄

ANAホールディングス(9202):4-6月期の決算は、純利益が前年同期比2.4倍の83億円。中国を中心に訪日客の利用が大きく伸び国際線が好調だった。

日本航空(JAL)(9201):4-6月期決算は、純利益が前年同期の2.2倍の326億円。4-6月期としては過去最高を記録。中国や東南アジアを中心に訪日客の需要を取り込んだ。

7月の業種別騰落率のトップは空運。原油安に訪日観光客の増加。順張りなら、いちばんわかりやすい投資アイデアである。特にJALのPERはまだ10倍そこそこであり、20倍超のANAに比べて割安感がある。

オリエンタルランド(OLC)(4661):4-6月期決算は、純利益が前年同期比9%減の155億円。春先の天候不順で客足が鈍ったため。しかし、上述の通り、世界一のクオリティのディズニーランドが、世界一安く売られている。この「お買い得感」は日本人にも外国人にも魅力的である。天候不順という特殊要因で客足が鈍っただけなら、いずれ戻るだろう。株価は前回の押し目では200日移動平均で切り返している。そろそろ押し目買いの機会を探るタイミングだろう。

コーセー(4922):4-6月期の純利益は、42億円強と前年同期の4倍に。3カ月間で4-9月期予想の純利益をほぼ達成する進捗率。売上高は550億円前後と24%増えた。主力の美白化粧品「雪肌精」の売れ行きが良く、高級ブランド「アルビオン」も好調だった。この美白化粧品「雪肌精」は中国人の「爆買い」の代表選手である。

松屋(8237):銀座は中国人に占拠されたかの印象を受ける。その銀座の老舗が松屋で、個人的にも贔屓にしている。スーツはほとんど松屋で仕立てている。その銀座松屋だが、行くとわかるが天井が低く、息苦しい。余計に売り場が手狭に感じる。現在、松屋は改装中。紳士服売り場を15年ぶりに大規模リニューアルし、9月4日に開業する。新たなブランドを取り入れた別館「松屋銀座マロニエ通り館」も設ける。好材料だろう。株価は50日線をきれいなサポートとして三角保ち合いを形成中。そろそろ上放れてくると見る。

(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。