若者の流行り口調で言えば、「やっぱ為替じゃね?↗」という感じか。どうでもいいが、この中途半端に語尾を上げる言い方、なんとかならないものか。聞いていて非常に不愉快である。

今日、TOPIXは前回6月下旬につけた取引時間中の高値を抜いて、一時年初来高値更新した。米国のISM非製造業景況感指数が60.3と10年ぶりの高い水準となったことで、NY外国為替市場では一時ドル円は125円台をつけた。このドル高円安の流れを好感して、このところ軟調だった自動車・電機・機械など外需・景気敏感株の一角に見直し買いが入った。

市場では好業績を発表したNTT(9432)や明治HD(2269)などの内需系銘柄が物色される流れは変わらないものの、トヨタ(7203)やファナック(6954)、村田製作所(6981)といった主力の製造業にも買戻しが見られた。ホンダ(7267)は約3%の続伸で連日の年初来高値更新だ。

そもそも米国経済は強い。前回レポートのタイトルを「カルフォルニア土産 その1」としたのは、「その2」でカルフォルニアではフリーウェイがどこも大渋滞、という報告をしようと思ったからだ。僕は、20年以上、カルフォルニアを見てきて、これほどの渋滞を経験したことがない。どこもかしこも、昼も夜も、平日も土日も、ひどく渋滞しているのだ。昔からロサンジェルスの交通渋滞は社会問題となっていたが、感覚的にはここ数十年でもっとも多くのクルマが走っているように思える。それもピカピカの新車が目立つ。実際に7月の米自動車販売台数は、前年同月比で5.3%増の151万台となり、季節調整済みの年率換算では1755万台。このペースが続けば、2015年通年の米自動車販売は、過去最高の1735万台を記録した2000年以来の高水準になる見通しだ。肌感覚でも、データでも米国景気は堅調であると思われる。

しかしこの堅調な景気と裏腹に、米国企業の業績は振るわない。ここ数回は、四半期決算のたびにリーマン危機直後の2009年以来の減益となる見通しと報じられ、最終的には減益決算を回避してきたものの、増益率はわずかに数%、一桁台前半という低い伸びが続いている。その理由は、原油安によるエネルギーセクターの低迷とドル高によるグローバル企業の不振である。

国内の景気は利上げを正当化できるほど強いのに、企業の業績は全体でみれば冴えない。ダウ平均は年初来安値圏に沈んだままだ。まとめると、景気○、業績×、株価×ということになる。

翻って日本の状況はどうか。4-6月期の決算は、一部に中国景気減速の影響で通期見通しを下方修正した企業もあったが概ね好調で、経常利益は前年同期比で3割程度の増益になった模様である。その一方で、国内景気は振るわない。本稿執筆時点ではまだ発表されていないが、4-6月期の実質国内総生産(GDP)は個人消費や輸出が振るわず、3四半期ぶりのマイナス成長となる見込みだ。しかも大幅なマイナスが予想されている。しかし、日経平均は年初来高値に迫る勢いで底堅く推移している。まとめると、景気×、業績○、株価○と米国の正反対の状況にある。

この状況は今に始まったことではない。2015年3月期は通期で実質国内総生産(GDP)の伸びがマイナスにもかかわらず、上場企業の経常利益が7年ぶりに最高を更新した。1955年度以降に7回のマイナス成長があったが、その年に企業収益が増えるのは法人企業統計ベースでは初めてのことだ。その背景は、海外で稼ぐ図式が定着してきたということである。「継続してデータがある341社の集計で、海外売上高比率は2015年3月期に57%と過去最高水準になった」と日本経済新聞は報じている。国内景気が悪くても企業業績は海外事業によって好調に拡大、よって株価も上がるというわけである。もはや「景気が良ければ企業の業績も上がり、株も買われる」という単純な構図は成り立たなくなっている。

端的に言えば、国内景気がダメでも、外需が好調ならば日本企業の業績は拡大し株も高くなる。
このひとことに尽きる。

日本は、景気×、業績○、株価○と米国の正反対の状況にある、と上述した。実はその点がミソである。米国景気の堅調さで米国はドル高となりそれが業績の足を引っ張る。しかし、日本企業にとっては米国景気の堅調とドル高円安はまさに願ってもない好環境なのだ。

読者におかれては、こういう疑問を持つ方がおられないだろうか?消費が弱くて国内景気がマイナス成長というが、あれほど喧伝されている訪日外国人による「爆買い」、インバウンド消費は内需に貢献しないのか?と。

訪日外国人の4~6月の消費額は前年同期比82.5%増の8887億円となり、四半期として過去最高を記録した。これまでの最高は1~3月の7066億円で、1~6月で1兆5千億円程度となる。年間では3兆円ペースで2014年通年の2兆円程度から大幅に増える計算だ。

これは無論、日本経済にとってプラスの寄与をするが、それでも率にすればわずかである。2014年通年の2兆円でGDP寄与度は0.1%程度。これが3兆円になっても0.2%に届くかどうかだろう。「インバウンド消費」は、GDPなどマクロでの寄与は率にしてわずかでも、個別企業の業績に与えるインパクトは効果絶大である。恩恵を受ける銘柄は多岐にわたる。

そして、あくまでも定義の問題だが、訪日外国人の消費というのはGDPの需要項目のうち、「輸出」に含まれる。観光は「サービスの輸出」である。つまり「インバウンド消費」というのをテーマ分類するなら、それは「輸出」の一形態であり、文字通り「外需」なのである。日本企業の4-6月期の業績拡大をけん引したのは、北米の好調とインバウンド消費。しかし、そのどちらも、「輸出・外需」である。従って、「輸出・外需」には「円安」というファクターが非常に効いてくる。なんだ、かんだ、言っても、やっぱ為替じゃね?というわけである。

昨今、市場の話題は冒頭の市況概況でも触れたように、「内需・ディフェンシブ株」と「外需・グローバル景気敏感株」の異常なまでの二極化だ。このリバーサルが、アンワインドが、いつ、なにをきっかけに起こるのかが市場の焦点となっており、その最右翼が「中国景気の底入れ確認」という点でも市場の見方は一致している。しかし、案外、円安進行がそのカタリストになるのではないか。日本時間金曜日夜発表の雇用統計が強く出て、ドル円が125円を明確に抜けて6月5日に付けた13年ぶりの安値(125円86銭)に迫るような状況になれば、「外需・グローバル景気敏感株」の出遅れ修正を伴い、日経平均も高値追いとなるのではないかと思う。

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