学校給食費の未納が3カ月間続いたら、給食の提供を停止します。その間は弁当を持参させてください。 - 埼玉県北本市の中学校が、保護者に通知を出したところ該当者全員が納付するか、納める意思を示した。学校のやり方に「ほかの家庭は払っているのだから当然だ」という意見がある一方で、「親の責任を子どもに押し付けるのはやり過ぎだ」との声もあがった。4日の朝日新聞デジタル版はそんなニュースを伝えている。

このタイミングでその記事を取り上げたのは、お察しの通り、ギリシャ問題との関連である。もちろん学校の給食費と国家の莫大な債務とではそもそも比較にならないが、案外、問題の所在は同根だったりする。

給食費未納の家庭のなかには、本当に家計が苦しくて払えない家庭もあるのだろうが、「タダで食わせてもらえるものなら...」と意図的に文字通りフリーランチを決め込んだところもあるだろう。これに対する世間の反応が興味深い。「当然、払うべき」というモラル論に交じって、「親の責任を子どもに押し付けるのはやり過ぎ」との声もあったという。つまり同情論である。

ギリシャの債務問題もこれに似ている。借りたカネは返すのが当然であるというモラル論に対して、同情論もある。悪いのは腐敗や汚職、脱税が蔓延るギリシャの社会・経済システムであり、ギリシャをそうした体質の国にしてしまった政治家や富裕層、そして一部の享楽的で怠惰な民衆に責任がある。ギリシャ国民の全員が全員、悪いわけではない。特に高い失業率に喘ぐ若者にそのツケが回されようとしているのは理不尽だ - という意見である。

"Everything has three sides. Yours, mine and the fact. (どんなことにも3つの側面がある。あなたの側、私の側、そして事実)" というのは僕が好きなアフォリズムのひとつだが、先日改めて「どんなことにも3つの側面がある」と知り、おおいに驚いたり納得したりすることがあった。

東京大学准教授の植田健一先生は、ギリシャ問題は全く逆の2つの立場と第3の立場があるという。ドイツなど北部ヨーロッパ国と南欧の対立、それにフランスなど中立的な立場だ。そこまではいい。僕がびっくりしたのは、「それぞれの論理は理路整然としており、優劣をつけがたい」と植田先生が言う点である。(日経新聞・経済教室「世界経済危機は去ったか(下) ギリシャ巡り欧州に亀裂」)

それぞれの論理は理路整然としているって?優劣をつけがたいだって?何、言ってんの、借りたカネは返すのが当たり前じゃん?と、僕ら日本人は考える。ドイツ以北の欧州のひともそうである。ところが、ギリシャをはじめ南欧の一部では、返せないほどの金を貸す方が悪いという。そんなのは無茶苦茶な屁理屈だ、と僕ら日本人は考える。ドイツ以北の欧州のひともそうである。ところが、植田先生に言わせると、そんなギリシャや南欧の考え方にも経済理論の裏付けがあり、国際金融論における国家債務問題に対する正解にかなり近いのだという。

<過重債務があると借り手は最適な投資や労働ができなくなる。従って、債務削減により投資や労働を上向かせられる。借り手の収入が増えるので、一方的に不履行とされるよりも貸し手も取り分が多くなる。この理論は、企業データで実証的に確認されており、国内の民事再生法の根拠となって、貸し手の権利をある程度制約する。(中略)ちなみにドイツや日本では貸し手の権利が比較的強く、借りた金を返すのが当たり前と思われている。だが、これは世界の平均的な貸借文化ではない。逆に権利が弱いのが南欧や南米の多くの国々で、返せないものは返さなくてよいという考えになじんでいる。>(既出「世界経済危機は去ったか(下) ギリシャ巡り欧州に亀裂」)

借りた金を返すのが当たり前と思われていたが、それは世界の平均的な貸借文化ではないらしい。驚いた。

もっと驚いたのは、ギリシャの国民投票の結果である。欧州連合(EU)が求める財政緊縮策の受け入れの是非を問うギリシャ国民投票は5日投開票され、反対が賛成を上回った。ギリシャのチプラス首相は同日の演説で、EUなど債権団との再協議に臨む考えを示した。EUはユーロ圏首脳会議を7日に開くことを決めた。このユーロ圏首脳会議の結果が次の市場の焦点となるだろう。

但し、繰り返し述べるが、ギリシャがユーロを離脱する可能性は低いと考える。その一番の理由は、誰もギリシャのユーロ離脱を望んでいないからである。ギリシャ国民もユーロ離脱を望んでいない。誰も望んでいない事態になることはないだろう。ユーロを離脱し、ドラクマに戻ればハイパーインフレで自らの資産価値が暴落、購買力が削減され生活がますます困窮することくらい、誰でも想像がつく。今回の国民投票は地方・低所得者層の生活苦の不満が反映された結果だが、「インフレは弱者への税金」である。ドラクマに戻ってインフレになりモノが手に入らなくなって一段と困るのは低所得者である。これまでの世論調査でもユーロ離脱を望む意見は少数派であった。

今回の国民投票の結果はサプライズと述べたが、実はギリシャ国民のメッセージは従前となんら変わっていない。すなわち、「緊縮はイヤだけど、ユーロから出ていくのもイヤだ」というものである。チプラス首相は、国民投票の前に、「これはユーロ離脱を問う投票ではない」と国民に呼びかけたと伝わる。あくまでも、EUとの交渉テーブルに再びつくための「カード」に過ぎないのである。

EUとの交渉がどうにもまとまらずに、いよいよユーロ離脱が避けられない事態となれば、当然、ギリシャは国民投票をするだろう。それがEUがもっとも恐れ、嫌がる「手」なので、チプラス首相はその「手」を脅しに使うだろう。しかし、実際にユーロ離脱を問う国民投票を行えば、それも「No」となるのは明らかだ。今回の国民投票の結果がユーロ離脱の可能性を高めたとする論調が目立つが、上述の通り、ギリシャ国民のメッセージは従前となんら変わっていないし、ユーロ離脱に向かうにはまだいくつかのプロセスがある(例えば銀行の営業をどう再開させるか等)。

そのあたりの事情を市場もよくわかっている。本稿執筆時点の6日11時現在、日経平均は約300円安。寄り付き直後の344円安から下げ渋る展開だ。ドル円相場も122円台後半、そしてユーロ円も135円台半ばへと早朝つけた133円台から買い戻されている。

日経平均は50日線がサポートに、ドル円、ユーロ円は一目均衡表の雲の上限が意識されている。チャート上の節目でとまっている限り、市場は冷静に受け止めているということである。

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