みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週はW杯決勝トーナメントにおける日本代表の試合結果を引き摺った一週間となってしまいました。無理な徹夜の後遺症に加え、残念だった結果からあまり仕事に力も入らず、という体たらくです。今週は気合を入れ直して行きたいと思います。先週は米中貿易摩擦の激化懸念や朝鮮半島非核化への疑問台頭などから、株価も大きな調整を余儀なくされました。ここまでの調整はちょっと予想外でしたが、これで株式市場はリスクを織り込んだと云えるのか、あるいは新たなリスク要因を織り込み始めているのか、判断が分かれるところでしょう。どちらかと云えば、筆者は後者の可能性を懸念しているのですが、少なくともまだ当面は上放れしていくきっかけには乏しいのでは、と予想しています。

今回は、テーマとして「株主総会」を採り上げます。3月決算企業が非常に多い我が国において、例年6月末はまさに株主総会のシーズンとなります。今年、6月最終週に総会を開催した上場企業はなんと約1,600社!全上場企業の40%超の企業が一斉に総会を開いている計算になります。そういった状況の是非には筆者も意見はありますが、ここでは触れません。むしろここでは、株主総会が変わってきていることに注目して、それを投資に如何に繋げていくかを考えてみたいと思います。

本来、株主総会は会社における最高の意志決定機関ですが、株価を大きく動かす要因となることは稀です。日々の経営判断は株主から負託を受けた取締役が臨機応変に行っているのが常であり、株価は随時その変化を織り込んでいくため、です。しかも、株式持ち合いが一般化していたかつては、安定株主からの賛成が「読めて」いたために、株主総会の重要性そのものは(最高決定機関との位置づけにもかかわらず)さほど高いものではありませんでした。その結果、株主総会はセレモニー化し、短時間で恙なく終了するのが(会社的には)良いという風潮さえあったのです。しかし、株式持ち合いの解消進行により、会社側も一般株主の理解を得なければ承認を得ることが難しい時代となりました。さらに、スチュワードシップ・コードの制定によって機関投資家のスタンスも変化しました。合理性や経営結果、ガバナンス体制などに厳しい目が向けられるようになり、要求に満たないと判断されれば堂々と否決票が投じられるようになったのです。現在の株主総会は徐々に本来の重要性を取戻しつつあるように感じています。

そういった中、筆者は株主総会において様々な会社提案(配当や役員報酬、役員選任など)で薄氷を渡る可決が少なからず出てきたことに注目します。もちろん、賛成票が100%でも51%でも同じ「可決」となるのですが、会社提案に無視できない規模の反対があったという事実は経営陣への相当なプレッシャーになることは間違いありません。次回に万が一、会社提案が否決されてしまえば、経営陣そのものへの不信任に繋がりかねないため、です。経営陣は妥当性を合理的に説明できる提案を上程できなければ、賛成票を確保できない時代となってきたと云えるでしょう。今回、薄氷の可決を得た企業では、早くも次回の総会に向けて何をどう提案すべきか、という下準備を進め始めているはずです。

前述の通り、株主総会が株価に直接的に影響を与えることはこれまであまりありませんでした。しかし、総会の結果が経営陣に対してより透明性の高い経営戦略を要求するとなれば、会社側に大きな変化を促すきっかけとなる可能性は十分高いと考えます。役員選任に対しても、結果の出ていない役員には総会でNOが突きつけられるケースも出て来るでしょう。かといって、闇雲に業績拡大路線をひた走れば、結果的に不祥事を巻き起こし、会社そのものの屋台骨を揺るがしかねない懸念を株主から指摘されるリスクもあります。まさに総会による経営陣へのプレッシャーは、昨今話題となっているESG(環境・社会・統治)経営の徹底を求めていることとほぼ同義なのです。

現在は、株主総会決議において、提案毎に賛成票がどの程度あったかが開示されるようになっています。皆様には投資対象として見ておられる企業の総会結果は是非確認されることをお勧めします。賛成票が低いということは、不満・不安を持つ株主が多いということです。これを「だから、この銘柄の保有を諦める」と判断するか、「株主からのプレッシャーが経営を変えていくだろうから、今こそ保有を考える」と判断するか、判断は難しいところでしょう。最終的には投資家自身の判断となりますが、投資を考えるうえでの重要な要素として認識しておくべきであることは論を待ちません。投資家からはよく、企業経営者のスタンスの変化を先取りするのは難しいという声が聞かれますが、こういったところにスタンス変化の兆しを見出すこともできるかも知れないのですから。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。