みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週の株式市場は、それまでの好調とは打って変わって、一気に調整色を強めた推移となりました。為替も久々に110円を割り込み、俄かに円高観測も高まってきています。本年最初の正念場というところでしょうか。ただし、企業業績の好調や世界的な景気堅調など、ファンダメンタルズにおけるピークアウトは感じられず、これまでの強気相場の潮目はまだ変わっていないとのスタンスを筆者は継続したいと思っています。なお、今週からは冬のオリンピックも始まります。一先ず、世の中の注目は五輪に集まり、それに併せて相場もやや小休止の色合いが増すのではないかと予想しています。朝鮮半島情勢などの懸念材料はむしろ五輪後に積み残された格好となっていますが、これらは五輪開催中の情勢を見つつ判断していくことになるでしょう。まずは全力でプレイされる日本選手団を応援するとともに、正念場は絶好の仕込み場と位置付けたいところです。

さて、今回のテーマは「着物」を採り上げてみましょう。先日、成人式を前に着物のレンタルや着付けを手掛ける業者が突然連絡不能となってしまったニュースがありました。式を楽しみにしていた新成人がその犠牲となったことは極めて残念なことでした。当該企業の所業は法律的にも道徳的にも許されず、今後こういった被害が繰り返されることがあってはならない、と筆者は強く感じています。ただ、この事件は着物産業の置かれた状況を改めて浮き彫りとするものでもありました。実は民間シンクタンクの調べによると、呉服(≒和服)市場のピークは1980年頃でおよそ1.8兆円程度の規模があったのに対し、2015年の市場規模は2,800億円程度になったとの報告があります。約35年でピーク比85%も減少したということになります。2005年を起点とした10年間でも50%超の市場縮小です。下値の目途を探る相場格言として「半値八掛け二割引」というのがありますが、この例でも下落幅は68%程度です。もちろん価格と市場規模を同列で論じるのは危険ですが、市場の縮小がどれくらい劇的なものであるかがわかっていただけるかと思います。ちなみに、日経平均は1989年末の過去最高値38,957円から2008年のバブル後最安値6,994円まで20年で82%の下落でした。呉服市場はかつての日経平均くらいにピークとはかけ離れてしまっているのです。

市場の急激な縮小は、云うまでもなく、我々が日常生活において和服を着ることがほぼなくなってしまったため、です。特に着物は、冠婚葬祭における「ハレ」の日にのみ着る特別な衣装となってしまったと言っても過言ではないでしょう。誤解を恐れずに極端な言い方をすれば、一種の「コスプレ」衣装という位置づけとなりつつあるのかもしれません。1980年代でも既に和服を普段見かけることはなくなっていたはずですが、それでも年配の方を中心に普段着として着物が使われていたのでしょう。そういえば、サザエさん一家でも波平さんやフネさんは確かに普段着として和服を使用しています。現在はそういった方さえもかなり減少してしまったように思えてしまいます。

そういった状況に対応して、和服企業はどんどんビジネスを変化させてきました。レンタル着物への注力に加え、美容事業とのコラボといった付加価値の拡大を急ぐ一方、男性着物への展開、着付教室の開設といった施策で需要の底上げを図る、などです。それらの動きを加速させるために、M&Aを積極的に実施している企業もあります。もちろん、和服市場の縮小がこれまで長期的に継続してきたことを考えれば、業界を上げての需要底上げ努力をもってしても、効果の発現には相応の時間がかかると考えるべきでしょう。しかし、市場縮小に歯止めがかかり、少しでも反転する兆しが出てくれば、和服企業にとっては大きな追い風となることは容易に想像ができます。これまでの調整が深く大きいが故に、トレンドの変化が見えれば株式市場もサプライズをもって受け止めるかもしれません。現状はやや物色対象とはなりづらいテーマですが、調整十分といった観点からウォッチしておきたい業態と云えるでしょう。

そのためには、今は「ハレ」の日の特別な衣装となってしまった和服ですが、やはり普段着として認識されていくことが必要ではないか、と筆者は考えます。既に、先端ファッションに和服(着物)が使われる例も増えて来ていますが、市場全体の拡大には普段着使いという需要層の再構築が不可欠ではないでしょうか。明治~大正時代のような和服の普段着を復活させる必要はありません。平成(そして新元号)における和服の(日常の)着こなしがきっとあるはずです。そういった提案が出始めた時こそが、トレンドの大きな転換を示すきっかけになるものと考えます。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。