日経平均は一進一退の動きが続いています。あけましておめでとうございます。みなさまは良いお正月を過ごされましたでしょうか。2025年も相場格言では「辰巳天井」です。高値を追う一年であってほしいところです。
ただし、厳しいスタートとなった大発会の示唆する通り、当面は上値が重いかもしれません。日本では政治的な迷走感が徐々に増してきたうえ、米国もトランプ新政権の経済政策がまだ良く見えてこない点が重石になるとの見方です。日本製鉄・USスチールの合併不承認も衝撃的でした。今後、「米国はなかなか難しい投資先だ」という認識へと繋がり、成長シナリオの修正を余儀なくされる企業が出てきてもおかしくないと考えます。
自動車関連、気になる2つのニュース
さて、今回は「自動車素材・自動車部品」を取り上げてみましょう。2024年も押し詰まった頃、自動車関連で気になるニュースが2つ、飛び込んできました。
1つは皆さんご存じの通り、日産自動車(7201)と本田技研工業(7267)の経営統合です。日産は業績面でも株価面でもかなり厳しい状況にあり、何らかの抜本的なテコ入れは不可避というのが株式市場におけるコンセンサスであったように思います。そのテコ入れ策がホンダとの経営統合というのは、予想できなかったわけではないですが、市場には相応のサプライズを持って受け止められたのではないでしょうか。
そしてもう1つは、ANAホールディングス(9202)が「空飛ぶクルマ」の商用運航を2027年度にも始めるというニュースです。「空飛ぶクルマ」は今年の大阪万博でデモ飛行が実施される計画ですが、その2年後には実用化に踏み切るというスピード感です。もちろん、これはまだ観測記事であり、現実にはまだまだ紆余曲折があることでしょう。しかし、実用化時期のメドが具体的に出てくること自体、モノゴトが急ピッチで変化しているということでもあるのです。こういった変化の芽を看過するべきではありません。
ホンダ・日産の経営統合によって起きること
まず、最初のニュースから自動車素材・自動車部品を考えてみましょう。当然ですが、ホンダ・日産の経営統合となれば、より効率的な企業運営に向けて(これまで一社では限界のあった)合理化余地が一気に広がることになります。これは系列の部品会社も然りであり、重複部門/事業はスリム化が図られることと予想します。
しかし、これは実力のある部品会社にとっては追い風でもあります。これまで1社だった売り先が2社――三菱自動車工業(7211)が加われば3社――に拡大するチャンスが出てくるためです。これまでの系列を越えての部品納入は容易ではないとの指摘もあるでしょうが、経営統合はそういった常識に切り込んでこそ効果が出てくるもの。より合理的な動きは加速するのではないか、と考えます。
当面、ホンダ・日産の2ブランド体制は維持されるようなので、むしろ部品会社の方でそうした動きが本格化するのではないでしょうか。
一方、素材に関しては大きな変化はないと考えます。自動車一台あたり、鋼材は重量構成比で約7割を占めており、ボディ材などに使用される鋼板がその主力を担っています。そういった高品質の鋼板を国内で提供できるのは日本製鉄(5401)、JFEホールディングス(5411)、神戸製鋼所(5406)の大手3社になります。統合によってどこかの鉄鋼メーカーの納入シェアが突出することになれば、シェア調整が入る可能性はありますが、現時点でそのような企業はないのでは、と推察しています。
「空飛ぶクルマ」の実現で自動車関連業界は大きく揺らぐ
問題は2つ目の方です。ここでいう「空飛ぶクルマ」とは、eVTOL(電動垂直離着陸機)とご理解ください。人が乗れるドローンというイメージでしょうか。静音で、二酸化炭素を排出せず、離着陸にスペースを要しないといった点で、気軽な「市民の足」としての期待が膨らむものとなっています。
機体には主にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が使用され、軽量化と強靭性の両立が図られています。実際には、機体安全性を担保する「型式証明」の取得、航空機との認識に伴う操業ライセンスや運航ルートの設定といった問題は残りますが、2027年実用化のニュースは問題クリアに向けての道筋が少なくとも見えてきた兆しと言えるでしょう。
この「空飛ぶクルマ」は、クルマとしつつも空陸両用車ではなく、正確には自動車ではありません。しかし、この実用化は、既存の自動車メーカー、部品メーカー、素材メーカーに大きな影響を与えるだろうことは想像に難くありません。
これまで人の移動手段は自動車、列車、飛行機などがありましたが、それぞれの特性を活かして利用者の棲み分けができていました。自動車は近・中距離移動がその主な用途領域ですが、空飛ぶクルマはまさにこのカテゴリーで重複してくる可能性があるためです。つまり、その普及は部品・素材を含めた広義の自動車関連業界全体を大きく揺るがすものになるかもしれないのです。
自動車素材・部品関連で注目の銘柄は?
では、具体的にどういった銘柄が注目できるでしょうか。プライム上場企業に絞って考えると、ホンダの系列部品メーカーとしては、テイ・エス テック(7313)、ジーテクト(5970)、武蔵精密工業(7220)、エイチワン(5989)、エフ・シー・シー(7296)などがリストアップできます。
同様に、日産の系列部品メーカーでは、ユニプレス(5949)、ヨロズ(7294)、パイオラックス(5988)などが挙がるでしょう。
一方、空飛ぶクルマ関連では、現在eVTOLの生産では世界トップランナーとされる米ジョビー・アビエーション[JOBY]にはトヨタ自動車(7203)が出資しているほか、2027年実用化を目論むANAホールディングスもジョビー社の機体を使用する計画のようです。
大阪万博でデモ飛行を計画しているのは、ANAホールディングスの他、日本航空(JAL)(9201)と住友商事(8053)の合弁会社、丸紅(8002)などで、海外製の機体を使用して参加する予定です。
その他、国産eVTOLの開発を推進するスカイドライブ社も大阪万博でデモ飛行を実施します。スカイドライブ社の出資企業には、伊藤忠商事(8001)、SCSK(9719)、大林組(1802)、関西電力(9503)、近鉄グループホールディングス(9041)、スズキ(7269)、LINEヤフー(4689)、豊田鉄工、日本化薬(4272)、日本電気(6701)、日本発條(5991)、などがその名を連ねています(除金融機関)。
また、CFRPではその核を成す炭素繊維メーカーとして、世界トップの東レ(3402)を筆頭に、帝人(3401)、三菱ケミカルグループ(4188)などを主要プレイヤーとして挙げることができます。