1.テレワークのさまざまなメリット
アベノミクス三本の矢では「人材の活躍強化~女性が輝く日本!~」が重要課題として掲げられていた。新三本の矢では、一歩踏み込んで希望出生率向上や介護離職防止に関する数値目標が盛り込まれた。それらを実現するためにはわが国でもテレワーク(在宅勤務を含むが、勤務場所は自宅に限らない)を定着させることが有効だろう。筆者が米国コロラド州のベンチャーに出向していた2002年当時、筆者の指示で動いてくれた営業責任者たちは遥か離れた西海岸等の半導体企業の工場周辺に位置する自宅がオフィスで、定期的に彼らと電話会議を行って業務を進めていた。顧客のいる場所に営業スタッフを常駐させられるメリットの大きさは明らかだろう。この他にもテレワークには多くのメリットがある(図1)のに、ICTが大きく進歩した今でも日本ではそうした仕事スタイルが定着していないことを筆者は奇異に感じている。

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2.テレワークは非常時にも効果を発揮する
最近(株)ワイズスタッフの田澤社長(注1)の講演をうかがったところ、興味深い事例が紹介された。去る1月18日には、首都圏南部は通勤時間帯直前に予想外の降雪に見舞われ、筆者も出勤にたいへん苦労した。一方、同社では、前日までに北海道北見オフィスを全員テレワークにする決断を行っていた。普段からテレワークを活用していることもあるだろうが、事前に一斉テレワークを決めていたことで業務には支障がなかったという。なお、こうした荒天の際には、子供の学校からは早朝のメールで「休校。自宅学習にします」といった連絡が来るものの、当社のような企業の場合は「いざ鎌倉」で忠誠心を試されているかのように、むしろ万難を排して出社して見せるのが常である。出勤を遂げた後になって「本日の天候による出勤の遅れについては、『通常の出勤』扱いとする。」といった全社員宛メールが届くこともある。電車の中で2時間も3時間も時間を浪費させるくらいなら、勤怠管理がないことで効率が仮に若干低下するとしても、テレワークで8時間しっかり働かせる方が雇用者にとってメリットが大きいはずだ。テレワークの可能性を想定して予め書類データをクラウドに上げておく等の対策を取れば、会社に行かないと仕事にならない、ということも少なくなる。テレワークが社内に定着している企業は、このように大規模災害時の対応も取りやすく持続可能性に優れることになり、格付けや株価も上がるのではないだろうか。

3.政府目標と現実とのギャップ
総務省のデータ(注2)によれば、資本金50億円以上の企業のうち12.2%が在宅勤務を導入しているとのことだ。政府は高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部の「世界最先端IT国家創造宣言」(注3)の中で、2020年までにテレワーク導入企業を2012年度比で3倍、週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上にし、こうした取組みも含めた女性の就業支援等により、第一子出産前後の女性の継続就業率を55%(2009 年実績は38.0%)、25 歳~44 歳の女性の就業率を73%(2011 年実績は66.8%)まで高めるとの目標を掲げている。裏を返せば、「毎日、朝から晩まで会社に来られる人しか雇わない」姿勢では、優秀な社員の確保が難しくなるということだろう。しかし現実には、在宅でできる仕事がない、勤怠管理ができない、家には仕事できる場所がない(注4)等のさまざまな課題(図2)があって、テレワーク導入がなかなか拡大していない。当社でテレワークのトライアルに参加した同僚に話を聞いてみたところ、「テレワークは子育てや介護等の特殊な事情の人のための特権制度」という社員意識(不公平感・肩身の狭さ)も大きな課題のようだ。

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4.意識改革さえできればテレワークの普及は進む
考えてみれば、丸紅(株)でも出張時は(さらに言えば海外駐在員も)「テレワーク状態」なのではないだろうか。テレワーク導入が躊躇される大きな理由には勤怠管理ができないことも挙げられるが、出張時の勤怠は出張報告書や訪問先との面談結果等の成果で管理しており、それに肩身の狭さを感じる出張者はいないはずだ。スマホの普及により同僚とビデオ通話も資料の閲覧も簡単にできるようになっているし、テレワークに特段の問題がないことは実証済みと言えるだろう。荒天予報時には、全社員に「出張」を命じるつもりになればよい。こんな意識改革しだいでテレワーク導入は一気に進むはずだ。

(注1)総務省「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」に係る提案において、同社グループによる北海道オホーツクふるさとテレワーク推進事業が採択されている。http://www.ysstaff.co.jp/archives/news/press/01172.html
(注2)総務省「平成26年通信利用動向調査」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001061335&cycode=0(注3)2015年6月30日閣議決定「世界最先端IT国家創造宣言」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20150630/siryou1.pdf(注4)日本マイクロソフト社では、東日本大震災の危機対応をきっかけに全社一斉テレワークを実施している。勤務場所として、カラオケボックスの利用も認めている(利用料も会社負担)という。
http://ascii.jp/elem/000/001/042/1042032/

コラム執筆:松原 弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 

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