昨日は「分からないことのリスクは大きい」という話を書きましたが、今日もまたそのことの重要性を思い出しました。あれはちょうど20年前の今日、私はプロのトレーダーをしていたので、朝早くからトレーディングデスクで多くのスクリーンの前に座っていました。そこに入って来た、最初は意味不明の速報。そうです、地下鉄サリン事件が起きたのです。次々に入ってくる新しい情報、そしてそれらにどのように反応すべきか迷うマーケット。霞ヶ関周辺や聖路加病院周辺に有事状態の緊張と混乱がある一方、トレーディングフロアも得も云われぬ緊張感が張り詰めていました。
当時私は、前職の米系投資銀行の日本における債券と為替ビジネス全体の共同責任者だったのですが、お昼前に、もう一人の共同責任者であるアメリカ人のGが、緊張を主成分とした独特の雰囲気のフロアの真ん中にいる私のところに上着を着て寄ってきました。"Oki, let's go."私は面食らいました。は?その日のランチ、私たちはとても重要なビジネスランチを、他社のシニアな外国人2名と食べる予定だったのです。場所は丸の内。当時私が勤めていた会社は赤坂にありました。ランチの場所に行くには霞ヶ関周辺を通らなければいけません。そもそも状況から考えて、ビジネスランチをするようなタイミングでないことは明らかです。しかしGはGで「は?」という表情でした。
そうです、刻一刻と状況が変わる中で、少なくとも20年前は、日本語以外で供給されている情報の速さ、正確さ、量は、日本語で供給されるそれに対して大幅に劣っていたのです。ですからGは、もちろん通常であれば正しい判断をする人間であるのに、どう考えてもずれた判断をしてしまったのです。もちろん我々はランチをキャンセルしました。この時に、「分からないことのリスク」というものを痛感しました。リスクは大小よりも、理解出来るかどうかの違いの方が、重要な差であるのです。
さて明日は春分です。本格的な春が来ます。天候もマーケットも春が来る。その雰囲気を大きく吸い込んで楽しみたいですね。良い週末をお迎え下さい。