先週(3月30日週)の振り返り=介入警戒で円安160円台は短時間にとどまった
早期停戦期待で円高=停戦期待の後退で円安に戻る
先週の米ドル/円は160円台での取引開始となりましたが、日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入を示唆するような発言などから上値も重く、160円以上での推移はごく短時間にとどまりました。
その後、イラン戦争の早期停戦期待から原油価格が反落すると、「有事の米ドル買い」とされた動きの修正により、一時、158円台前半まで米ドル安・円高に戻す場面もありました。ただ注目された日本時間4月2日のトランプ米大統領の演説を受けて早期停戦期待が後退、原油価格上昇が再燃すると、改めて159円台まで米ドル高・円安に戻る展開となりました(図表1参照)。
先週にかけて一時的に米ドル安・円高に戻すところとなった要因としては、円安阻止を目的とした日本の為替介入に対する警戒やイラン戦争の早期停戦への期待などのほかに、日米金利差(米ドル優位・円劣位)が大きく縮小した影響もあったのではないでしょうか(図表2参照)。これには、米利上げ見通しの修正があったと考えられます。
米ドルの上値を重くしたもう1つの要因、米利上げ予想の修正
原油価格の高騰などを受けてインフレ懸念が再燃したことから米金利も大きく上昇しました。その結果、それまで米国の政策金利であるFFレートを下回って推移していた米2年債利回りは、一転してFFレートを上回る水準となりました(図表3参照)。これは、この先の米金融政策の見通しについて利下げから利上げに転換したことを示すものでした。ただ利下げ見通しの消滅はともかく、利上げを予想するというのはさすがに先走り過ぎたのではないでしょうか。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに原油価格などが高騰し、世界経済は約40年ぶりの歴史的インフレに陥りました。この時、FRB(米連邦準備制度理事会)は当時0.25%だったFFレート誘導目標上限を3月から引き上げに動きましたが、その判断はビハインド・ザ・カーブ、つまり「後手に回った」と批判されました。
これに対して、足下のFFレート誘導目標上限はなお3.75%と、2022年に利上げを開始した頃に比べるとかなり高い水準にあります(図表4参照)。また米国のいわゆる中立金利は3%程度との見方が基本であり、それよりは高いという意味では、なお米経済に対して引き締め気味の位置にあると言えるでしょう。
中立金利より引き締め気味のFRB=米ドル高で利上げ予想は先走り過ぎ
なお、ECB(欧州中央銀行)、日銀の政策金利はそれぞれ2.15%、0.75%で、ともに中立金利を下回っているという意味では、それぞれの経済に対して緩和気味の位置にありそうです。そのため、インフレ再燃に対して引き締め姿勢への転換を急ぐ可能性が高いでしょう。
これに対して、足下で引き締め姿勢にあるFRBがさらなる利下げを中断するのはともかく、利上げを急ぐというのは少し違和感があります。もう1つ、イラン攻撃以降の米ドル高の影響も考慮する必要があるでしょう。通貨高は基本的に金融引き締め効果をもたらすものだからです。
以上のようにみると、イラン情勢などを受け、米利上げ見通しの軌道修正を少し先走った可能性もあります。そのことが要因となり米金利が低下したことも、先週(3月30日週)にかけて米ドル/円の上値を重くしたもう1つの要因だったと考えられます。
今週(4月6日週)の注目点=株安の動向、そして3月CPI
株安続く中、「イラン」以外の悪材料浮上にも要注意
2026年2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃から1ヶ月以上が過ぎる中で株安傾向も続いています(図表5参照)。この状況がさらに続くようであれば、イラン情勢とは別の悪材料がクローズアップされるリスクも意識する必要があるでしょう。いわゆるプライベート・クレジット(ノンバンク融資)問題は、景気悪化や株安への転換により表面化するとの見方もあります。
プライベート・クレジット問題は、2007年に始まった信用バブル崩壊局面におけるサブプライム・ローン問題と比較して議論されることがあります。サブプライム・ローン問題で最初に大きな注目を集めたのは、2007年8月9日に起こった「パリバ・ショック」でした。これは当時、NYダウが下落に転じてから約1ヶ月後の出来事でした(図表6参照)。そして、株安が一段の拡大に向かうと、FRBは2007年9月に利下げを決めたのでした。
景気回復と株高が続く中で表面化しなかった問題が、景気の悪化や株安への転換によってクローズアップされるようになれば、中立金利から見ても、なお引き締めの位置にあるFRBの金融政策は、利上げどころか、利下げの検討を余儀なくされる可能性もあるでしょう。
スタグフレーションならFRBはどう動くか=今週(4月6日週)の米ドル/円は157~162円で予想
今週発表される米経済指標の中では、とくに4月10日に予定されている3月CPI(消費者物価指数)が注目されるでしょう。CPIの前年比上昇率は、総合が前回の2.4%から3.4%への急上昇、そしてエネルギーなどを除いたコア指数も前回の2.5%から2.7%への上昇が予想されています。これを受けて、改めて米利上げ見通しが強まる可能性には注意が必要でしょう。
イラン攻撃をきっかけに起きた原油などエネルギー価格の急騰は、1970年代の「オイル・ショック」の再来なのかもしれません。それは米経済にも、物価高と景気後退が同時に進むスタグフレーションをもたらすリスクがあります。ではそうなった場合、FRBはインフレ対策の利上げと景気対策の利下げのどちらを優先するのでしょうか。米ドルの動向が1つの鍵になるかもしれません。スタグフレーションでも米ドル高が続く場合に、FRBは利下げに動く可能性があるのでしょう。
米ドル/円はこれまで続いてきた「原油高=円売り、原油安=円買い」、そして日本と米国による円安阻止介入とのにらみ合いといったことに加えて、米国の金融政策の行方も重要なテーマになる可能性があります。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は157~162円で引き続き不安定な展開を予想します。
