マーケット環境が変化し、想定を超える相場変動が発生することが珍しくなくなってきました。これからの資産運用では「いかにリターンを上げるか」以上に「いかに資産を守るか」というリスクコントロールの視点がますます重要になります。
ボラティリティ(変動率)が大きくなるマーケット、その理由は?
最近の金融市場は日銀をはじめとする中央銀行の金融政策の転換、ロシアのウクライナ侵攻やアメリカのイラン攻撃など、地政学リスクの高まりによってボラティリティ(変動率)が高くなっています。
そしてSNSやアルゴリズム取引の普及により、情報に対し瞬時に同じような反応を示す投資行動が増え、マーケットが過剰に変動するようになっています。
6月8日には日経平均株価が1日で2,500円以上下落しました。これ以上の大幅な日経平均の下落は過去4回ありましたが、1987年10月のブラックマンデーを除けば、ここ2年に集中して起こっています。今回の暴落は、資金が集中して割高になっていたAI・半導体関連株が、アメリカの利上げ懸念をきっかけに投資家の売りが一斉に出たのが原因です。
ボラティリティが高まる局面で、単一の国や特定の資産クラス(アセットクラス)だけに資金を集中させていると、市場の急変動によって資産が一瞬で大きく毀損するリスクがあります。資産の分散によってポートフォリオ全体の変動を抑えるためのクッションをあらかじめ作っておくことが不可欠です。
ノーベル賞理論に学ぶ、「違う値動きをする資産」の組み合わせ
分散投資の効果を最大限に高めるポイントは単に多くの銘柄を持つことではありません。異なる値動きをする資産を組み合わせることが必要です。これはノーベル経済学賞を受賞したハリー・マーコウィッツ氏が提唱した現代ポートフォリオ理論(MPT)によって数学的に証明されています。
MPTでは相関係数がプラス1(完全な連動)未満の資産同士を組み合わせると、ポートフォリオ全体の期待リターンを下げずに、価格変動リスク(ボラティリティ)を下げられることが数学的に証明されています。
つまり、既存のポートフォリオにそれと異なる動きをする資産を組み入れることで、同じリスクでより高いリターンを目指せる「効率的フロンティア(有効フロンティア)」を構築することが可能になります。
効率的フロンティアとは、同じリスクの中で最大のリターンが実現できるポートフォリオをつなぐ曲線です。有効フロンティア上にあるポートフォリオを実現するためには、値動きの異なる資産を組み合わせなければなりません。
例えば、世界株のインデックスファンドを複数持っていても、それらの相関係数が1に近ければ、世界同時株安の局面ではすべて一緒に下落してしまい大きな分散効果は得られません。株式だけでなく、株と債券の組み合わせや、株や債券との相関が低いオルタナティブ資産などを組み入れることでMPTに基づく投資を実践できます。
金融資産だけではなく、インフレに強い「実物資産」もポートフォリオに
私自身は、これからの分散投資を考える上で、現金や株式、債券といった金融資産だけでポートフォリオを構築するのでは不十分だと考えます。インフレが定着し貨幣価値が目減りしていく環境下で重要になるのが、オルタナティブ資産とも呼ばれる実物資産(コモディティや不動産)への分散です。
金(ゴールド)に代表される貴金属や現物不動産、あるいはインフラ資産などは、インフレや法定通貨の信用が低下する局面で有利な投資対象です。金融資産と実物資産をバランスよく保有することはインフレリスクに対抗しながらリスクをコントロールできる究極の分散投資と言えると思います。
「預金だけ=安全」ではない、「リスクの取らな過ぎ」に潜む別のリスク
リスクコントロールと聞いて誤解してはいけないのは、「リスクを抑える」ために預貯金や個人向け国債などの安全資産ばかりに資産を集中させてしまうことです。「リスクの取らな過ぎ」という別のリスクを抱えることになります。
マイルドなインフレが続く経済において、預金や国債の金利が物価上昇率を下回っていれば、実質的な資産価値は目減りし続けている(購買力が落ちている)ことになります。つまり、リスクを取らない選択自体が「確実な損失」を招くリスクになってしまうのです。
大切なのはリスクをゼロにすることではなく、自身の許容度の範囲内で「適切なリスク」を取り、インフレ率に負けないリターンを確保することです。
取り過ぎ(過大なレバレッジや集中投資)を避けると同時に、取らな過ぎ(過度な現金主義)による機会損失と購買力低下にも注意しましょう。そのためには自分のリスク許容度に合った最適なアセットアロケーション(資産配分)を実践する必要があります。
年齢やライフステージに応じて変化させる最適なアセットアロケーション
最適なアセットアロケーションは一度決めたら終わりではなく、自身のライフステージや年齢の経過と共にアップデートし続ける必要があります。
20代や30代のようにリタイアまでの期間が長い時期は、市場の長期的成長の恩恵をフルに受けるために、ボラティリティの高い株式のような資産の比率を高めに設定し、時間を味方につけて一時的な下落でも回復を待つことができます。
しかし、年齢を重ねてリタイア期が近づくにつれ、大きな下落からの回復を待つ時間が足りなくなります。
そのため、年齢と共に徐々に債券や不動産などの安定資産の比率を高め、ポートフォリオ全体のボラティリティを下げていく「守りの運用」へとシフトさせていくことが不可欠です。
市場で生き残るために、分散投資で「負けない投資」を実践する
資産運用で失敗する人の多くは集中投資や過剰なレバレッジによるリスクの取り過ぎによって、マーケットの下落局面で大きな損失を出し、市場から撤退していった人です。
資産運用はマラソンと同じように長期でしぶとく生き残っていくことが大切です。ボラティリティが高まれば高まるほど想定外の損失を出してマーケットから撤退する人が増えていきます。
「負けない投資」こそが、史上最強の投資戦略であることを忘れないようにしましょう。
