今回は企業型DCに加入している場合の60歳以降の選択肢についてみていきましょう。
50代になったら、会社の制度と60代以降の働き方を確認しよう
50代になったら、60代以降の働き方などについて検討されると思いますが、企業型DCについても次の2つの点を確認しておきましょう。
・60歳以降の手数料は誰が負担するの?
60歳以降も同じ会社で厚生年金に加入して社員として働く場合、恵まれたケースでは「65歳」や「70歳」になるまで会社が掛け金を出すという会社もあります。その場合は、そのまま勤務先の企業型DCの加入者として受取り時まで運用を継続すればよいでしょう。
一方、会社が掛け金を出すのは60歳になるまでで、その後は運用指図者となり、手数料も会社負担ではなく従業員負担に切り替わるケースもあります。
iDeCoに移換して「加入者」になる道も
後者の場合、2つの選択肢があります。
1.企業型DCのまま「運用指図者」として運用する
1つ目は企業型DCで「運用指図者」として運用を続けるというものです。この場合、新規の掛け金はかけられず、運用を継続するかたちになります。60歳以降、それほど長く運用する予定がない場合、例えば61歳、62歳といった年齢で受け取りを検討している場合には運用指図だけすればよいと思います。
2.iDeCoに資産を移換して「加入者」として運用する
2つ目はiDeCoに資産を移換して「加入者」として運用を継続するケースです。2026年12月からiDeCoに加入できる年齢が70歳未満に引き上げられることが決まっています(*)。60歳以降も厚生年金に加入して働く人は、企業型DCで運用してきた資産をiDeCoに移換して、iDeCoの加入者になることも検討できます(移換の際には一度投資信託などで運用している資産は現金化されます)。この場合、ご自身で掛け金を払いながら、運用を行うことになります。60歳以降も働いて収入があり、老後資金を積み増したい場合にはこちらの選択肢も有効です。
*2025年12月24日に「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の一部の施行期日を定める政令(政令第441号)」が公布され、施行期日は2026年12月1日となった。
iDeCoに移換する場合の手続き
iDeCoに移換する場合、企業型確定拠出年金の加入者資格の喪失、および資産の移換の手続きが必要です。iDeCoの運営管理機関の中から加入したいところを選びます。その運営管理機関に連絡し、「個人別管理移換依頼書」を提出してください。また、iDeCoに加入する必要があるため、「個人型年金加入申込書」を提出する必要があります。一部の運営管理機関ではこうした加入・移換の手続きをオンラインで行うことができます。
iDeCoに移換して加入者になる3つのメリット
企業型DCで積み上げてきた資産をiDeCoに移換して加入者となるメリットとしては、
・60歳以降も収入がある場合、掛け金が全額所得控除(小規模企業共済等掛け金控除)として差し引けるため、その年の所得税と翌年の住民税の負担を軽減できる
・一時金で受け取る場合、加入者であれば、退職所得控除の計算式の勤続年数(加入年数)にカウントされる(差し引ける退職所得控除額が増える)
ことがあります。
iDeCoや企業型DCで運用してきた資産を一時金で受け取る場合、課税される退職所得は「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」です。これに税率をかけて税額が決定します。収入金額は運用してきた資産額。差し引ける退職所得控除額は次の計算式で決まります。
| 勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
|
20年以下 |
40万円×A(80万円に満たない場合は80万円) |
|
20年超 |
800万円+70万円×(Aー20年) |
加入者期間は退職所得控除額を計算するときにカウントされますが、運用指図者の期間はカウントされません。例えば、企業型DCからiDeCoに資産を移し、5年加入した場合、運用してきた資産から差し引ける退職所得控除額が「40万円×5年=200万円」ふえることになります。60歳以降も働いて収入がある人、老後資金を積み増したい人は検討してもいいかもしれませんね。
「稼ぎ力」のある50代を有効に活用しよう
資産形成という意味では「収入<支出」に移行するまでの期間が勝負。稼ぎ力(働いて得る収入)がゼロになってから、投資で金融資産を一気にふやそうとするのは現実的ではありません。50代という時間は有効に活用したいところです。
2026年4月からは企業型DCのマッチング拠出について、事業主掛金の額を超えて加入者掛金(個人が上乗せする掛金)を払うことができるようになります。マッチング拠出が利用でき、余裕がある方は、加入者掛金をふやすことも可能です。加入者掛金については、iDeCoの掛金と同様、全額所得控除の対象となります。
