ダウの犬投資法とは何か

年末から年始にかけての時期が近づくと、米国発の投資手法である「ダウの犬投資法」を意識するタイミングです。この手法は、現在オヒギンズ・アセット・マネジメントの代表兼最高投資責任者(CIO)を務めるマイケル・オヒギンズ(Michael B. O’Higgins)が、1991年に出版した著書『Beating the Dow(ダウ平均を打ち負かす)』の中で紹介したもので、高配当利回り銘柄に投資するシンプルな戦略です。単純なルールでありながら、米国市場では高いリターンが得られる手法とされています。

今回は、この「ダウの犬投資法」を日本株で検証し、日本株市場で実践する場合に、どのようにすれば効果的に収益を得られるのかについて紹介します。

まずは、米国株を対象としたオリジナルの「ダウの犬投資法」を紹介します。実際の手順は次のとおりです。

「ダウの犬投資法」の手順

1.年末時点でNYダウを構成する30銘柄から、配当利回りの高い順に上位の10銘柄を選別します。

2.上位10銘柄それぞれに、均等に投資を行います。そして1年間そのままポジションを変更しません。

3.1年後の年末に、再びNYダウ構成銘柄から配当利回りの高い上位10銘柄を選別し、均等額投資のリバランスを行います。

「ダウの犬投資法」の2つの趣旨

ダウの犬投資法には、大きく分けて2つの趣旨があります。1つ目は、高配当利回り株に投資することで、安定したインカム収益を享受するという点です。そして日本株市場においても、高配当利回り株が長期投資で良好なパフォーマンスが示されます。本連載の11月26日付の記事「九州電力など9選 年末~新春に強い投資指標(配当利回りと利益予想変化率)を使った銘柄選別法」では、その検証結果を紹介しました。

もう1つは、その年に株価が大きく下落した銘柄が、翌年に反発する傾向を狙うというものです。「ダウの犬投資法」における犬とは、「負け犬(アンダードッグ)」を意味します。株価下落によって配当利回りが高まった銘柄は、相対的に割安にもなり、そうした銘柄のリバウンドを狙う点が、この手法の特徴です。

日本株での応用―TOPIXコア30を使った日本版ダウの犬投資法

ダウの犬投資法は米国のNYダウ構成銘柄を投資対象とするため、日本株で実践するには似たルールが必要です。

そこで、NYダウと同じ30銘柄で構成されるTOPIXコア30指数の構成銘柄を使います。TOPIXコア30指数は、東京証券取引所に上場する銘柄の中から、時価総額や流動性が特に高い30社で構成されており、日本株市場を代表する大型株で構成されています。

構成銘柄の一覧は、東京証券取引所のウェブサイトに掲載されている「TOPIXニューインデックスシリーズ・東証規模別株価指数」の構成銘柄の項目から確認することができます。投資対象となる銘柄の選定以外については、米国におけるダウの犬投資法と同様のルールを採用します。具体的には以下に従います。

日本版ダウの犬投資法のルール

1.年末時点でTOPIXコア30指数に採用されている銘柄から、今期予想配当利回りの高い順に上位の10銘柄を選別します。

2.上位10銘柄それぞれに、均等に投資を行います。そして1年間そのままポジションを変更しません。

3.1年後の年末に、再びTOPIXコア30採用銘柄から配当利回りの高い上位10銘柄を選別し、均等額投資のリバランスを行います。

日本版ダウの犬投資法はどこまで有効かを検証

TOPIX(配当込み)の累積リターンを大きく上回る結果に

それでは、日本版ダウの犬投資法がどの程度効果的であるのかを検証します。検証は2005年末を起点にダウの犬投資法を実行し、翌年以降の年間リターンを累積する形で行いました。検証期間は約20年間で、直近については2024年末時点で銘柄を選定し、2025年年初から12月12日までのリターンを2025年分として扱い、分析しています。

その結果を示したものが図表1です。赤線で示した10銘柄の累積リターンは、米国での投資手法と同様に、毎年、配当利回り上位10銘柄に入れ替える形で運用した「日本版ダウの犬投資法」を表しています。これをベンチマークとして用いたTOPIX(配当込み)の累積リターンと比較すると、大きく上回っており、日本版ダウの犬投資法が有効な投資手法であることが確認できます。

【図表1】TOPIXコア30指数構成銘柄を使った「日本版ダウの犬投資法」の株価パフォーマンス
注1:データ期間は2006年(2005末での投資)から2025年(2024年末での投資)、但し2025年は12月12日まで。データサイクルは年次
注2:母数はTOPIXコア30構成銘柄
注3:予想配当利回りは日本経済新聞社の毎年末時点での今期予想の現金配当額を用いる
注4:毎年末時点で今期予想配当利回りが高い方から該当する数の銘柄に等金額投資した場合の翌年のリターンを算出。絶対パフォーマンスは2005年12月以降を累積している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

日本版ダウの犬投資法が効果的となった背景には、投資対象の選び方にポイントがあります。一般に、単純に高配当利回り銘柄を選別すると、減配リスクに加え、株価がさらに下落するリスクを抱える可能性があります。一方で、投資対象に日本株市場を代表するTOPIXコア30指数構成銘柄に絞ることで、財務基盤や事業の安定性が相対的に高い企業に限定され、こうしたリスクを一定程度抑えることができます。この点が、日本版ダウの犬投資法の有効性を支える大きなポイントとなります。

投資対象銘柄を減らした場合はどうなるか?

ところで投資家の皆さんが実際に日本版ダウの犬投資法を実践する場合、10銘柄に均等な金額を投資するには、相応の投資資金が必要となります。そこで図表1では、投資対象とする銘柄数を減らした場合の検証結果についても取り上げました。

結論から述べると、配当利回りの高い順に3銘柄に絞った日本版ダウの犬投資法は、十分に機能すると考えられます。図表1の青線が3銘柄に絞った戦略を示していますが、10銘柄で運用した場合と比べると足元のパフォーマンスは劣るものの、20年間の検証期間では累積リターンが400%を超えています。

一方で、投資対象の銘柄数が少なくなるほど、保有銘柄が特定の業種に偏りやすくなり、パフォーマンスがその時々の業界環境の影響を受けやすくなります。極端な例として、配当利回りが最も高い1銘柄のみを保有する場合のパフォーマンスは、図表1の茶色線で示すように、TOPIXを上回ってはいるものの、複数銘柄を保有した場合と比べると見劣りします。以上を踏まえると、保有銘柄の分散と実行しやすさのバランスから、3銘柄を保有する日本版ダウの犬投資法が有効と考えられます。

そこで、実際に筆者がマネックス証券のウェブサイトで提供されている「銘柄スカウター」の10年スクリーニング機能で出力した予想配当利回りのデータを用いて、更にExcelで加工することで3銘柄を保有する日本版ダウの犬投資法の参考銘柄を抽出しました(図表2)。

【図表2】スクリーニング結果(Excel出力での表示変換)TOPIXコア30指数構成銘柄の高配当利回り上位3銘柄

注:予想配当利回りはマネックス銘柄スカウターより取得 出所:マネックス証券ウェブサイト マネックス銘柄スカウター(2025年12月16日時点)を用いてマネックス証券作成

ダウの犬投資法では年末時点で銘柄を選別する必要がありますが、年末まで残り10営業日程度となっていることから、図表2に示した3銘柄を用いて、日本版ダウの犬投資法を実践するという方法も考えられます。また、オリジナルの手法では各銘柄に等金額を投資することが前提となっていますが、投資できる総額によっては、それぞれの銘柄に最低売買単位の株数を購入する形でも対応できるでしょう。投資タイミングは、そこまで厳密でなくても、来年初までの間のどこかでも問題ないと考えています。

銘柄スクリーニングの手順

図表2に示した銘柄スクリーニングの手順を整理します。まず、「銘柄スカウター」の10年スクリーニングを用いて、個別銘柄の予想配当利回りデータを取得します。次に、Excelを使って対象をTOPIXコア30指数の構成銘柄に絞り込みます。そのうえで、TOPIXコア30指数構成銘柄の中から、配当利回りが高い上位3銘柄を選別します。

銘柄スクリーニング方法を解説

ここからは補足的な説明です。年末にダウの犬投資法の銘柄を読者の皆さんご自身で選定する際の、具体的な手順を紹介します。

銘柄スクリーニングは、大きく3つの段階に分けて行います。

1.個別銘柄の予想配当利回りデータを取得

まず、「銘柄スカウター」の10年スクリーニングを用いて、個別銘柄の予想配当利回りデータを取得します。TOPIXコア30指数の構成銘柄は時価総額の大きい銘柄で構成されているため、これらを含む形で時価総額の大きい銘柄の「予想配当利回り」を抽出します。10年スクリーニングでは、TOPIXコア30指数の構成銘柄に直接絞り込むことができないためです。

以下では、実際に用いたスクリーニング条件を示します。
[基礎条件]
市場:東証プライム、時価総額:10,000億円(1兆円)~
[詳細条件]
[指標]予想配当利回り:指定なし

東証プライム銘柄で時価総額が1兆円以上の銘柄を対象に「予想配当利回り」を出力します。
詳細条件の設定中の「予想配当利回り」は、後の処理で必要な指標なので表示のみとします。

【図表3】スクリーニングの条件設定画面(銘柄スカウター)
出所:マネックス証券ウェブサイト 銘柄スカウター(ログイン後 ― 投資情報 ―ツール― マネックス銘柄スカウター ― 10年スクリーニング、2025年12月16日時点)

この結果、図表4のような銘柄一覧が画面に出力されます。さらにTOPIXコア30指数の構成銘柄に絞り込む必要があるので、右上の「CSVダウンロード(図表4の〇印)」から銘柄リストを取得して、Excelで処理します。

ここで注意点があります。後に、Excel処理のために行う「csvダウンロード」は200銘柄までの制限があります。そこで対象銘柄数が200銘柄以内であることを確認します。仮に、200銘柄を超えていたら、10,000億円(1兆円)で設定している時価総額の最低基準を少し増やして、対象銘柄を200銘柄までに抑えるようにしてください。

【図表4】スクリーニング表示結果(銘柄スカウター)
出所:マネックス証券ウェブサイト 銘柄スカウター(ログイン後 ― 投資情報 ―ツール― マネックス銘柄スカウター ― 10年スクリーニング、2025年12月16日時点)

図表5は図表4でダウンロードして取得したcsvファイルをExcelで開いた画面です。

【図表5】Excel画面サンプル
出所:マネックス証券ウェブサイト 銘柄スカウターの結果を使ってマネックス証券作成

2. TOPIXコア30指数の構成銘柄の銘柄コードを取得

I列にはTOPIXコア30指数の構成銘柄の銘柄コード番号を入力します。J列は会社名です。これらの取得方法は後述します。

3. TOPIXコア30指数構成銘柄の予想配当利回りを高い順に並び替える

そして、K列にはVLOOKUP関数を用います。これは、I列の銘柄コードと同じコードをA列から探してきて、そのA列から数えて7列目の予想配当利回りの値を表示する機能です。また、I列ではTOPIXコア30指数の構成銘柄のうちに予想配当利回りの高い方からの順位を示す関数です。

このようにして、順位が1位から3位までの銘柄を抽出したものが図表2となります。

※補足:TOPIXコア30指数の構成銘柄の会社名と銘柄コードの取得手順について

TOPIXコア30指数の構成銘柄の銘柄コード番号と会社名の取得方法は株式の情報サイトなどで提供していますので、そこから取得することも可能です。

公式には東証のウエブサイトでTOPIXコア30指数の構成銘柄一覧がPDFファイルで取得できるので、Power Query(Excelの標準機能)を使ってExcelに読み込むことができます。Excelで次の手順でメニューを指定していきます。「データ」 →「データの取得」 → 「ファイルから」 → 「PDFから」で東証のCore30指数構成銘柄PDFを指定することによりTOPIXコア30指数の構成銘柄の銘柄コード番号と会社名が取得できます。