カーボンニュートラル達成のための新たな取組み

日本政府は2050年までにカーボンニュートラル(CO2をはじめとする温室効果ガスの排出・吸収量のネットゼロ)を目標としている。再生可能エネルギーや原子力発電などの脱炭素効果の高い電源の活用や、省エネ住宅、食品ロスの削減、さらには次世代燃料の普及などで達成を狙う。こうした中で、森林やブルーカーボンなどでCO2を減らそうとの取組みが広がりつつある。ブルーカーボンは日本が先導する脱炭素の新たなモデルでもある。

環境省によればブルーカーボンとは、沿岸・海洋生態系が光合成によりCO2を取り込み、その後海底や深海に蓄積される炭素のことである。2009年に公表された国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」において紹介され、CO2吸収源対策の新しい選択肢として世界的に注目が集まるようになったという。なお、森林など陸上生物により吸収・貯蔵する炭素は「グリーンカーボン」と呼ばれる。

海草・海藻などがCO2を吸着、貯留

ブルーカーボンの主要な吸収源としては、藻場-海草(うみくさ)・海藻(うみも)や塩生湿地・干潟、マングローブ林があげられ、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれている。海草は海中で花を咲かせ種子によって繁殖し、海中で一生を過ごすアマモなどの海産種子植物のことである。海藻は海で生活する藻類で、コンブやわかめなどが該当する。また、ヨシなどが茂る湿地帯を塩生湿地と呼ぶ。

藻類は植物と同じように光合成を行う。起源は約35億年前とされ、そこから植物などへ変化してきた。ただ、CO2の吸収効果を意識されるようになったのは最近で、藻類の大量培養に成功したのはわずかに50年前のことだという。

日本には多様なブルーカーボン生態系が存在する。ブルーカーボン生態系は光合成などによりCO2を吸収し、食物連鎖や枯死(こし=枯れ切った草木)後の海底への堆積により炭素を固定する。さらにCO2の吸収源としての機能以外に、水質浄化機能や水産資源の活性化など様々な恩恵をもたらす。ブルーカーボン生態系の保全推進は、地球温暖化の防止のみならず、豊かな海を醸成し、生物の多様性確保にもつながる。

本格化が見込まれるブルーカーボン

環境省は2024年4月、国連に報告した温室効果ガスの排出・吸収量の算出において、新たに海草藻場、海藻藻場によるCO2吸収量を反映した。これは世界で初めてのことである。国連に提出した温室効果ガスインベントリ(排出・吸収目録)ではCO2吸収量は2022年度で約35万トンだったという。

国土交通省によれば、陸上でのCO2吸収量が世界で年間10億トンに対し、海では同25億トン。日本は海に囲まれており、藻類が生育しやすい環境といえる。磯焼けなどで魚が減少する中で、食糧問題としても注目度が高い。

ブルーカーボンはこれから本格化するとみられ、中長期的な観点でビジネスチャンスも拡大するだろう。

ブルーカーボン関連銘柄をピックアップ

東洋製罐グループホールディングス(5901)

飲料缶やペットボトルなど包装容器首位。2025年9月、全国でのブルーカーボン生態系の回復と生物多様性の保全に向けてアマモ再生プロジェクトの開始を発表。子会社の東洋ガラスが不動テトラ(1813)と開発した藻類増殖材「イオンカルチャー」を用いて、高輪ゲートウェイシティビジネス施設内の水圏ラボで実施。今後は宮城県漁協や自治体との連携で、沿岸部でのアマモ場の再生を目指す。全国への応用も視野に。

【図表1】東洋製罐グループホールディングス(5901):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月30日時点)

不動テトラ(1813)

陸上・海洋土木の中堅。イオン溶出型藻類増殖ガラス「イオンカルチャー」を手掛ける。藻類の成長に必要なリン、ケイ素、鉄などをガラス化した素材。中に含まれる成分が水中でイオンの状態で溶出し、早期の藻場造成に寄与する。長期にわたり安定して成分が溶出。海水に含まれる成分のみなので無害で安全だという。

【図表2】不動テトラ(1813):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月30日時点)

理研ビタミン(4526)

同社の100%子会社で「ふえるわかめちゃん」で知られる理研食品が、2025年1月に運営する海藻の陸上養殖施設にブルーカーボンの研究を担う設備を導入したと報じられている。設置したのは大型の水槽で、LED(発光ダイオード)の光が当たる水槽の中でコンブの種苗を開始。コンブは成長が早くCO2吸収力に優れ、一部は分解されにくい多糖類として海中に放出されるため、炭素の貯留につながると期待されている。2031年度に産業化を目指すという。

【図表3】理研ビタミン(4526):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月30日時点)

ENEOSホールディングス(5020)

2025年5月に海洋研究開発機構(JASMTEC)と港湾空港技術研究所と共同で、環境省より「海洋資源を活用したCCUSに関する検討業務」を受託したと発表した。CCUSとはCO2を分離回収し、その利活用や貯留を行うこと。ブルーカーボンの拡大のために、深海域における海藻類の挙動や周辺環境に及ぼす影響などについて調査・検討を行い、海洋資源を活用したCCUSの推進、CO2削減などを目的とした事業だという。

【図表4】ENEOSホールディングス(5020):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月30日時点)

住友大阪セメント(5232)

2024年10月に革新的なブルーカーボン対応多機能型藻場増殖礁「藻場王」を開発したと発表。同社は20年以上前から磯焼け対策製品として藻場増殖礁の沈設実績400基以上、藻場養殖プレートは30万枚以上の納入実績がある。この実績をもとに海藻増殖機能を増強し、海の環境保全機能を搭載できたという。プレートには海洋生分解性プラスチックを使用。

【図表5】住友大阪セメント(5232):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月30日時点)

岡部(5959)

建設向け仮設・型枠、構造機材などを展開。海洋事業も行う。2024年6月にブルーカーボン事業化に向けた多段式の海藻養殖技術を開発したと発表している。養殖施設を設置した島根県壱岐郡の沿岸海域は浅場から30メートル以上の深場に大型褐藻(かっそう=藻類の一群)の藻場が形成されている。ここに海藻種苗培養技術を活かした「多段階養殖施設」を設置。炭素の効果的な固定のほか、工業原料など海藻の2次利用も検討している。

【図表6】岡部(5959):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年10月30日時点)