アベノミクスの金融緩和と円安容認をけん制=ベッセント米財務長官
米財務省は10月28日、27日に行われた日米財務相会談でベッセント米財務長官から、「アベノミクスの導入から12年が経過し、状況が大きく変化している」、「インフレ期待を安定させ、為替レートの過度な変動を防ぐ上で、健全な金融政策と(市場との)対話が重要な役割を果たす」との考え方を伝えていたことを公表した。
2012年12月に発足した第2次安倍政権の経済政策であるアベノミクスの柱は、日銀による大胆な金融緩和と、それを受けた円安を容認することでデフレからの脱却を目指すというものであった。一方で高市新総理は、「ニュー・アベノミクス」という表現でアベノミクスの継承を主張しているが、それが金融緩和と円安容認とならないようにけん制したということだろう。
その上で10月29日には、さらにベッセント長官自身がSNSへ、「政府が日銀に政策運営の裁量を認める意思が、インフレ期待を安定させ、為替相場の過度な変動を防ぐ上で鍵となる」と投稿した。分かりやすく言えば、高市総理周辺が追加利上げを目指す日銀の障害になることをけん制したということではないか。
所信表明で日銀への言及なし=米国からの要請で日銀へフリーハンドか
このようなベッセント長官からの日本の金融・為替政策への要請は、すでに非公式な形ではトランプ米大統領来日の前、先週(10月20日週)の時点であった可能性も考えられる。その根拠は、10月24日に行われた高市総理の所信表明演説の中で、日銀への言及がなかったことである。
推理小説などで使われる手法の1つに、「本来あるべきものがないことは何らかの示唆である」というものがある。「本来あるべきもの=所信表明演説での日銀への言及」、それがないことはそれ自体が何らかの示唆の可能性があった。
意図的に日銀へ言及しないことで、ベッセント長官の言葉を使えば「政府が日銀に政策運営の裁量を認める」ようにしたと見える。つまり、追加利上げについて、日銀へ「フリーハンド」を与えたということであり、それはその後のベッセント長官の発言などからすると、米国サイドからの非公式な要請の影響があったのではないか。
行き過ぎた円安の阻止・是正が目的か=日技への利上げ期待
上記の状況の中で、高市政権の誕生で大きく後退した日銀の早期利上げ期待は変わり始めたようだ。アベノミクスの継承は、デフレからの脱却を目指した金融緩和の継続と円安容認から、物価高対策が期待される今の日本では変わっていることを再確認するのがベッセント長官の目的であり、それは日銀の早期利上げの可能性が再燃する上で大きな役割を果たしたようだ。
なぜベッセント長官はこれほど日銀の早期利上げにこだわっているのか。ベッセント長官は、「インフレ期待を安定させ、為替相場の過度な変動を防ぐ上で鍵となる」と述べていたが、より分かりやすくいえば行き過ぎた円安の阻止、是正が目的なのではないか。
ベッセント長官の一連の発言からすると、「150円を超えた米ドル高・円安は、米国の貿易不均衡拡大を助長しかねない」との考え方から基本的に容認しない方針のように見える。金融政策の目標はあくまで物価安定であり、為替相場を目標にしないことが大原則ではあるが、本音では円安阻止、是正のために日銀の早期利上げを要請している可能性もあるだろう。
