2025年10月は日本の政治史・経済史に残るのかもしれません。本邦憲政史上初の女性総理誕生となったうえ、日経平均はついに終値ベースで5万円の大台に到達しました。日経平均はこの1ヶ月で実に10%もの急騰です。AI関連などがその直接の牽引役とはなったものの、やはり新首相への期待感が上げ足を速めたということなのでしょう。先日行われた高市新首相による所信表明演説にサプライズはありませんでしたが、経済重視スタンスの再確認に資本市場は安心と期待を寄せたのだと受け止めます。手堅い政権運営が続けば、当面はそうした「御祝儀相場」のセンチメントが続くのではと期待したいところです。

思えば、日経平均が34年前の1989年につけた史上最高値(38,915円)をようやく(本当にようやく)更新したのが2024年2月でした。それからわずか2年弱で5万円に達したことには感慨深いものがあります。もちろん、期待が過大であれば、その後の反動も不可避です。高市新政権の掲げる「責任ある積極財政」がどこまで実現できるのか。その手腕に期待はしつつも、成り行きにはしっかりと目を配っておくべきでしょう。

1年間で約6割の上昇、ゴールド急騰の背景をおさらい

さて、今回は「ゴールド」をテーマに取り上げてみたいと思います。このコラムは10年超続けていますが、このテーマを論じるのは初めてです。かつて貨幣経済の根幹を担ったゴールドをこれまで取り上げてこなかったことに、改めてちょっとした驚きを感じています。それほどにゴールドへの注目度が高くなかったのは、金価格が長らく1トロイオンス当たり400ドル前後で安定していたことに他なりません。

もう皆様ご存知の通り、金価格は直近1年で約6割上昇し、今は1トロイオンス当たり4,200ドル前後という史上最高値圏での推移となっています。長期安定していた2000年代前半との比較では、実に10倍程度の上昇率です。

直近は急落もありましたが、(現在のところ)底が抜けた展開には至っておらず、急ピッチだった上昇の日柄調整という見方がなされているようです。このコラムでは、こうした金急騰の背景をおさらいしたうえで、それに絡めた株式投資の考え方について論じてみることにします。

信頼性の高い実物資産=「有事の金」

そもそもゴールドは、貨幣としての色彩が非常に濃い特殊な金属といえます。変動相場制下で貨幣としての地位はどんどん失われてきましたが、それでも稀少性や耐劣化性といった観点で信頼性の高い実物資産であると今でも強く認識されています。株券や紙幣はそれを裏付ける信用を失うと紙切れになってしまいますが、実物資産は「モノが存在している」という点で極めて安全というわけです。

信用の揺らぐことのない平時はゴールドへの注目度は低下しますが、一旦不確定な状況に陥ると、「有事の金」として注目度が一気に増す、という構造にあるのです。実際、各国中央銀行は依然としてゴールドを備蓄しており、現在もゴールド総需要のおよそ4分の1は中央銀行が担っているとの統計もあります。なお、総需要のおよそ半分は宝飾品向けですが、これも広義では実物資産として魅力が支えているものと言えるでしょう。ゴールドは工業用途もありますが、その規模はわずかです。

つまり、金価格が長期的に低迷していたのは、「有事」発生の蓋然性低下に加え、米国を核に信用経済がある意味盤石であったということなのでしょう。実際、過去に金価格が急騰したのは、1970年代の中東戦争勃発時、インフレ懸念の台頭や米ドル下落のあった2010年頃に限定されます。2010年頃の上昇局面では1700ドル程度を高値に、その後は失速しました。

コロナ禍以降、上昇する金価格

しかし、コロナ禍の発生と期を一にして金価格は上昇を始めます。未知の病気の世界的伝染という「有事」と、コロナ対策として各国が供給した過剰流動性の結果として加速したインフレ観測がその背景にありました。それもその後の金利上昇などから一旦は落ち着くのですが、2024年に入って金価格は再び急騰に転じ、現在に至っています。

足元の市況急騰の要因分析には諸説ありますが、米国による内向きの経済政策への転換や燎原(りょうげん)の火の如く世界に広がった地政学リスクの台頭、世界的な金利低下などがおそらくは影響していると考えられます。それでもここまで急騰するということは、ゴールドの価値がこれまでとは異なる次元で再評価されているということなのかもしれません。

これがどのような未来を示唆しているのかは不明ですが、1980年以降の「不換紙幣」システムを支えてきた枠組みに変化が生じつつあるのかもとも想像します。あるいは、そんな大仰なものでなく、この急騰はかつてのチューリップバブルのような仇花という結末もまた否めません。結論は「神のみぞ知る」ですが、多くの市場関係者はこの金価格急騰がどう説明されるのかを固唾をのんで注視している段階にあるのです。

「ゴールド」に投資するいくつかの手段

では、株式投資という観点でゴールドを考えれば、どうでしょうか。金価格上昇に賭けるならば、当然、ゴールドそのものへの投資がもっともシンプルな投資スタイルになります。ゴールドはそれ自身が投資商品でもあるためです。しかし、ゴールド現物を安全に保管するにはリスク(コスト)が生じる他、売買時には消費税対応が必要にもなりかねません。

であれば、特に本コラムの読者の皆様には、金価格に連動する上場投信(ETF)がより手軽な投資手段ということになるのではと考えます。あるいは、金鉱山や金スクラップから金地金を生産する企業も投資対象に挙げられるでしょう。

筆頭は、世界トップクラスの品位を誇る金鉱山を複数保有する住友金属鉱山(5713)です。金価格の上昇はそれだけ保有鉱山の資産価値上昇に繋がると考えることができます(実際には、採掘・製錬コストを差し引く必要があるのですが)。また、ゴールドを含む貴金属のリサイクルを手掛ける松田産業(7456)やAREホールディングス(5857)も関連銘柄として挙げることができます。

ここからの金投資は高値警戒感とのせめぎ合いとなるのでしょうが、大きな構造変化を先読みしているのであれば、投資を検討する価値は十分にあると言えるのかもしれません。金価格が示唆する未来を考えてみるのも面白いのではないでしょうか。