日経平均株価が5万円の大台に乗せた。2025年6月27日に4万円台に回復してから4ヶ月でさらに1万円上昇したことになる。高市早苗氏が10月3日に自民党総裁に選出されたことで勢いを増し、10月21日には女性初の首相に就任。積極財政を進めて経済を拡大させる、いわゆる「サナエノミクス」への期待が高まっていることが大台突破の背景だ。

高市首相、積極財政で暮らしの安全安心の確保と「強い経済」を実現へ

従来の安倍元首相以降の政権は例えばガソリンの暫定税率の廃止一つとっても、「財源はどうする」という財政均衡論ばかりが先行し、経済の拡大が進みにくい手法をとってきた。高市首相は責任ある積極財政を打ち出し、大胆な「危機管理投資」と「成長戦略」で暮らしの安全安心の確保と、「強い経済」を実現すると表明した。経済成長により、税収を増やしていく方針だ。

公約通り政策が進めば、日本のGDP(国内総生産、名目ベース)が増加し、GDPのうち6割を占める個人消費が活発化し、企業業績の一段の改善やそれに伴う賃金の上昇も見込めるようになる。

GDPと株価には密接な関係がある。1990年以降のバブル経済崩壊後は、日本のGDPは500兆円前後で長期横ばいとなった。この間、金融の引き締め策や1997年には消費税率を3%から5%に引き上げるなど日本経済は長期低迷した。なお、1989年末を起点とするとS&P500はなんと20倍以上になっているが、日経平均株価は、2024年3月に1989年の最高値をようやく更新したという状況だった。日本のGDPは、2024年に初めて600兆円に乗せた。

安倍政権によるいわゆる「アベノミクス」の効果が持続したことが背景だ。2012年にスタートした第2次安倍内閣はデフレ下で誕生した安倍政権では「大胆な金融緩和」、「積極的な財政出動」、「成長戦略」という3本の矢を打ち出し、2020年9月までの任期で日本を復権させてきた。しかし、その後の岸田内閣や石破内閣では緊縮的な政策が主であり、足踏みをしてきた。

「サナエノミクス」責任ある積極財政で日本経済の拡大を

中間所得層の負担を軽減、物価高対策では手取りの増加

今回の高市政権の政策を「アベノミクス2.0」と呼ぶ向きもあるが、経済のステージが違う。デフレ脱却を確かなものにする必要はあるが、責任ある積極財政で日本経済の拡大をゆるぎないものにするのが「サナエノミクス」だ。所信表明演説では中間所得層の負担を軽減し、所得に応じて手取りを増やす必要に触れた。

物価高対策では手取りの増加なども急ぐ。また、早期に「給付付き税額乗除」の制度設計に着手する方針。所得税から一部を差し引く税額控除と、現金を給付する仕組みを組み合わせ、低所得者に恩恵をもたらす。

スケジュール的にはまず補正予算、そして2026年6月の「骨太の改革」などの動向が注目される。GDPが着実に増加する政策が打ち出されれば、株価も上昇を継続することが想定される。

2026年、日経平均6万円が視野に

株価を評価する指標にPER(株価収益率)がある。これまで日経平均株価のPERはおおむね14倍~16倍で推移し、17倍では過熱感があると見方が一般的だ。現在のPERは18倍台後半にあり、一部では過熱感があるとの見方もある。ただ、これはデフレ下での話だ。日本経済が拡大し、企業業績が成長するのであれば高いPERは許容される。米国S&P500のPERは23倍程度で推移している。

日経平均の1株利益は直近で2,600円程度。複数の大手調査機関によれば2027年3月期は10%~12%の増益が見込まれる。2026年の日経平均株価の上値めどは、10%増益でのPER20倍で5万7200円、21倍なら6万円が視野に入る。

高市政権のリスク要因

リスク要因は連立を組む日本維新の会との不協和音。閣外協力で結びつきにやや不安が残る。また、ガソリン税の旧暫定率廃止に向けた与野党間の整理案では、金融所得課税の強化が明記されている。仮に実行されれば大幅な株価調整を余儀なくされる可能性がある。

高市氏が注力する政策の関連業種と関連銘柄とは

防衛費増の前倒し達成に伴う関連銘柄

物色面ではまず防衛関連が挙げられる。高市首相は防衛費をGDP比2%に増やす目標を、従来の2027年度から2025年度中に前倒し達成すると報じられている。現在は2023年度から2027年度までの5年間で43.5兆円が充てられる方針であり、実行可能かどうか疑問符が付くほどの「大盤振る舞い」だ。翌年以降も増加するとみられ、三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、IHI(7013)をはじめとした企業に恩恵がある。

サイバーセキュリティ・量子コンピュータ・宇宙関連銘柄と副首都構想関連銘柄

このほか、原発再稼働、核融合発電、サイバーセキュリティ、量子コンピュータ、宇宙なども前向きに進めていくとみられる。順に東京電力ホールディングス(9501)、超電導材のフジクラ(5803)、富士通(6702)、ispace(9348)を挙げておきたい。

連立を組む日本維新の会は「副首都構想」を掲げている。東京で大規模災害が起きた場合の備えとして主に大阪への機能誘致を想定している。鉄道の阪急阪神ホールディングス(9042)、電炉の大阪製鐵(5449)、不動産の京阪神ビルディング(8818)、ゼネコンの淺沼組(1852)などに関心が向かっている。

日米関税合意に基づく対米投資関連銘柄

直接の高市施策ではないが、造船業は日米関税合意に基づき日本が対米投資をする分野だ。造船は中国のシェアが約7割と覇権を握られており、米国造船業を活性化するには経済安全保障上も国内造船の復活が重要視される。三井E&S(7003)、名村造船(7014)、ジャパンエンジンコーポレーション(6016)などが該当する。