モトリーフール米国本社 – 2025年10月17日 投稿記事より

量子コンピューティングの各分野で大きな進化を遂げている3社

人工知能(AI)は産業を変革していますが、その先には「量子コンピューティング」と呼ばれる、さらに大きな技術革命が待ち構えています。量子コンピューターは量子力学の特性を活用し、地球上で最も強力なスーパーコンピューターでも処理できないほど複雑な計算を、高速に行うことができます。

この強力な計算能力は、新しい医薬品の発見など、社会にさまざまな影響をもたらす可能性がありますが、この技術はいまだ初期段階にあります。そのため、この分野に関わるすべての企業が成功するとは限りません。したがって現時点では、この分野で活動する複数の企業に分散投資するのが賢明な戦略といえるでしょう。

量子コンピューティングへの分散投資を考えるなら、以下の主要企業3社が選択肢となりえます。IT大手のアイビーエム[IBM]、サイバーセキュリティ企業のパロ・アルト・ネットワークス[PANW]、量子コンピューターを開発するイオンキュー[IONQ]です。これらの企業はこの新興技術分野において独自の強みを持っており、バランスの取れた投資機会を提供してくれるでしょう。

1.アイビーエム[IBM]:量子アドバンテージを達成へ

長い歴史の中でアイビーエムは、数々の革新的な技術を生み出してきました。量子コンピューティングもその最新の取り組みの一つです。アイビーエムは2016年に世界で初めて、量子デバイスをクラウド上で公開しました。また、同社の発表によると「Qiskit」という、世界で最も広く利用されている量子コンピューティング用ソフトウェアを所有しています。

同社は関連企業の中で他社を圧倒しています。その理由は、同社が2026年末までに、「量子アドバンテージ」を達成する見込みを示していることにあります。量子アドバンテージとは、量子コンピューターが現実世界の実際の問題を、スーパーコンピューターよりも効率的に解けるようになる段階を指します。

このような飛躍的進歩を実現できる量子デバイスの登場は、極めて重要な転換点を意味しています。この段階に到達すると、量子コンピューターはついに現在の高度なコンピューターと肩を並べる存在となり、将来的にはそれらを置き換える可能性さえあります。

アイビーエムに注目すべきもう一つの理由は、同社の強固なフリーキャッシュフロー(FCF)です。これにより、量子技術への多額の投資が可能となっています。2025年上半期にアイビーエムは48億ドルのFCFを稼ぎ出し、2024年の45億ドルから増加しました。また、アイビーエムのFCFは、テクノロジー企業としては高水準の配当支払いも可能にしており、本稿執筆時点で配当利回りは2%を超えています。

2.パロ・アルト・ネットワークス[PANW]:量子による攻撃を防御

量子コンピューターは非常に高性能で、世界中の既存のサイバーセキュリティを突破できるほどの能力を持っているともいわれています。つまり、パロ・アルト・ネットワークスは量子コンピューティングのエコシステムにおいて重要な役割を果たしていることを意味します。

同社は統合量子企業クオンティニュアム(未上場)などと協力し、量子コンピューターによる攻撃を防ぐことができる「ポスト量子暗号(PQC)」の構築に取り組みました。2025年、パロ・アルト・ネットワークスは近い将来到来が見込まれる「量子アドバンテージ」の時代を見越して、PQC対応の製品をリリースしました。

量子によって最適化されたファイアウォールのような防御に加え、これらのツールは、組織が量子による攻撃に対し、どれ程備えているかを表示するダッシュボード機能も搭載しています。これは差し迫る脅威への認識を高めつつ、製品の導入を促進する賢明な方法といえます。

PQCソリューションは、パロ・アルト・ネットワークスのサイバーセキュリティプラットフォームを強化するもので、販売は順調です。既存製品の好調な売り上げに支えられ、同社の2025年度(7月31日終了)売上高は92億ドル、前年比15%増と堅調でした。同社は2026年度においてもほぼ同様の前年比14%の売上増を予想しています。

3.イオンキュー[IONQ]:低コストハードウエアで先駆け

量子コンピューティング関連株の最後の候補は、比較的歴史が浅いイオンキューです。同社は2017年に初の量子デバイスを発表しました。過去1年間に量子産業が着実に「量子アドバンテージ」に近づく中、投資家の関心も急速に高まりました。その結果、イオンキューの株価は2025年10月14日時点で、年初来80%超の上昇となっています。

イオンキューはアイビーエムとは大きく異なる技術を採用しています。アイビーエムの量子ソリューションは特殊な極低温装置を必要としますが、イオンキューの技術は常温での稼働が可能です。これは費用効率が高い量子コンピューターを実現するのに不可欠であり、結果として、競合他社は装置の開発に30倍もの費用をかけているとイオンキューは推計しています。

同社は、量子ネットワークを基盤とする未来のインターネットの構築を目指しています。その実現に向けて、イオンキューはこの分野の小規模企業を次々と買収し、自社の技術力を強化してきました。

イオンキューには2025年9月12日現在、有利子負債がなく17億ドルの現金および同等物を保有し、積極的な買収が可能になっています。同社は10月に発表した20億ドルの株式発行によって、さらに資金を積み増そうとしています。

同社の技術は政府や企業に広く採用されており、2024年の売上高は4,310万ドルと、前年2,200万ドルのほぼ2倍に拡大しました。同社は2025年の売上高を8,200万ドル~1億ドルと予想しています。

イオンキューは量子コンピューティングで成功するための素晴らしい要素を備えていますが、株価バリュエーションは非常に割高です。本稿執筆時点の株価・売上高比率(PSレシオ)は300倍を超えています。これに対し、パロ・アルト・ネットワークスは16倍、アイビーエムは4倍と妥当で魅力的な水準です。したがって、イオンキューは高いリスク許容度を持つ投資家にのみ適しており、投資判断を決定するのは株価の押し目を待つのがよいと考えられます。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Robert Izquierdoはアイビーエム、イオンキュー、パロ・アルト・ネットワークスの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はアイビーエムの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社は、パロ・アルト・ネットワークスを推奨しています。モトリーフール米国本社は、情報開示方針を定めています。