世界的な株価の上昇が続き、日本も米国も株式インデックスは史上最高値を更新しています。急ピッチな上昇に高値警戒感も出ており、またトランプ米大統領をはじめとする要人発言や経済データの発表により一進一退となっています。

世界的な株価の上昇は金融政策とインフレが主要因

今回の株価の上昇の要因はいくつか考えられます。そもそも株価を決めるのは企業の収益ですから、好調な企業業績が株価の上昇を支えているのは確かです。

そしてそれを後押しするのが金融緩和への期待です。市場金利の低下は将来の収益の現在価値を引き上げますから、株価にはプラスです。米国では中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ期待が高まっています。8月25日に報道されたトランプ米大統領によるFRB理事クック氏の解任命令も中央銀行の独立性への懸念はあるものの利下げ期待を高めています。

日銀の金融政策は海外とは逆に利上げ方向ですが、そのスピードと引上げ幅は株価に大きくマイナスとなるものではありません。むしろ利上げによって銀行株などは利ザヤの改善からプラスの影響を受けることも期待できます。

そして何より世界的なマイルドなインフレの継続が株価にとってはプラス要因になります。日本ではこれまで預貯金に滞留していた個人金融資産が内外の株式に流入を始めています。2024年からのNISA制度変更等の影響もあり、インフレが続けばこの流れはこれからさらに加速しそうです。

そして株高を実現する新たな要因が生成AIと呼ばれる新しい人工知能の技術進歩ではないかと考えます。

AIの普及は既存の経済構造を破壊する

AIは経済の生産性を高めるだけではなく、既存の経済構造を大きく変える可能性があります。まずAIの広がりで大きく影響を受けるのは労働市場です。特にホワイトカラーのリサーチやレポート作成といった業務はAIの方がスピードと正確性に優れていく可能性があります。また、アメリカのビッグテック企業では新卒採用を控える動きが出ています。AIによって知的労働とは何かという根源的な問いかけがなされています。

AIによる社会構造の変化に対応できる人とできない人とで所得格差が今まで以上に拡大すると予想されます。これからはAIを使いこなせる人材かAIが作り出せないクリエイティブな仕事や代替できないエッセンシャルワーカーのような対人サービスに従事する人々に仕事が二極化していくことでしょう。従来の知識や経験が陳腐化してしまうことからリスキリングのニーズも高まります。

また、AIはその情報収集の早さと計算能力から、従来は膨大な時間とコストを要した研究開発を効率化します。人的資源に乏しい中小企業や新興国でも大企業に対抗できるイノベーションが実現できる可能性が高まります。

AIがもたらす「ニューノーマル」

「ニューノーマル」という言葉は2008年のリーマンショック後に使われ始め、新型コロナウイルスによるパンデミックの際にも使われています。それまでの経済構造が変化して新たな状態に変わっていくことを意味しています。

例えば、コロナ禍による「ニューノーマル」によってデジタル化やリモートワークなどの変化が定着しました。デジタル化はテクノロジー企業の成長を促し、リモートワークの普及によりオフィスビル需要が減少したり、オンライン会議などが普及したりと、企業の雇用形態が変化しました。

コロナ禍の時よりもさらに大きな「ニューノーマル」が生成AI(人工知能)によってもたらされる可能性があります。これは株価に大きく影響します。

AIが株価に与える影響

AIの普及は、多くの要因を通じて株価の上昇につながる可能性があります。その影響は均一ではなく、セクターや企業によって異なります。株価へのプラス要因としては企業経営の効率化、イノベーションの加速、新しい市場の創出による企業収益の向上などが考えられます。

製造業ではAI導入で自動化が進み人件費をはじめとする生産コストが削減されます。サービス業でも顧客対応が効率化でき収益を高めることになります。また、新薬開発、素材研究、金融リスク分析などではこれまでの研究開発期間を大幅に短縮しコストを削減します。さらにAIを活用したマーケティングや顧客対応、自動運転技術などの新たな市場が創出される可能性もあります。

一方で、AIの広がりはすべての企業の株価を押し上げるわけではなく、AIの普及からマイナスの影響を受ける企業も出てきます。例えばAIによる自動化が容易な業務を主とする産業や企業は、AIに仕事を奪われ企業としての存在価値を失うかもしれません。また、AI投資に消極的な企業は効率性やイノベーションで競合企業に後れを取り、株価が低迷していくことでしょう。

AIの普及は全体として市場の成長を促す可能性がある一方で、企業間の競争を激化させ、株価の格差を拡大させる要因にもなります。AIが既存企業の淘汰を加速する側面があることを忘れてはいけません。

インターネット、ブロックチェーン、AIが未来を変える

「火薬」「羅針盤」「活版印刷」の3つが15世紀以降のヨーロッパの社会生活に大きな影響を与えた「ルネサンス三大発明」と言われています。火薬は戦争の方法を劇的に変化させ、羅針盤は大航海時代を生み出し、活版印刷は知識や思想の普及を加速させるのに貢献しました。

それと同じようにインターネットが情報ネットワークを作り、ブロックチェーンがデータのセキュリティを高め、AIが社会のイノベーションを加速する。これらが現代社会の「三大発明」と言えるのではないでしょうか?

私が考えるようなAIによる「ニューノーマル」が訪れつつあるとすれば、株式マーケットのこれまでの常識が変わる可能性があります。とすれば個人投資家は過去の延長線上に将来を予想するのではなく、「ニューノーマル」の可能性も柔軟に受け入れ、これからのマーケットと付き合っていく必要があると考えます。