2025年7月22日、マネックス証券が金融経済教育推進機構[通称:『J-FLEC』(ジェイ-フレック)]と共催で「金融リテラシー向上セミナー」を実施しました。J-FLECは、特別の法律に基づき国の認可を受け、 中立・公正な立場から、官民一体で金融経済教育を推進する唯一の公的機関です。幅広い年齢層の国民の皆様に向け、 一人ひとりのニーズに合わせた金融経済教育の機会を提供しています。J-FLECとネット証券がセミナーを共催するのは初の試みとなります。日本橋三井ホール「橋楽亭」で行われた、そのセミナーの様子をお届けします。
「金融リテラシー」について専門家がわかりやすく解説

今回のセミナーは、二部構成。第一部では、J-FLEC認定アドバイザーの高木典子氏による「金融リテラシー基礎セミナー」が行われました。
まずは「金融リテラシーとは?」「なぜ金融リテラシーが必要なのか」という説明から。高木氏の説明によると金融リテラシーとは「経済的に自立し、よりよい生活を送るために必要な『お金に関する知識や判断力』」のこと。これを学ぶことで安心した生活や、経済的に自立、よりよい暮らしを送ることができると高木氏は語ります。
金融リテラシーを育むために学ぶべきことは「家計管理」、「生活設計」、「資産形成などの金融経済知識」。そして、ときには相談窓口などの外部の知見の活用が必要とのこと。
生活設計:ライフイベントに伴う出費に備える
ここからは、学ぶべきことが1つずつ具体的に解説されていきます。まず「生活設計(ライフプランニング)」は、「将来どんな生活を送りたいかについての構想を描くこと」。結婚や車の購入、子供の教育費、自宅購入、老後の生活費など、人生の様々なライフイベントには大きな出費が伴うため、資産形成などで計画的に備えることが大切だと強調しました。
家計管理:収入の把握と支出の見直し
続いては「家計管理」。収入と支出のバランスを取るためには収入の把握、固定費などの支出の見直し、お金を貯める・増やすための先取り貯金や投資などによる仕組み化が効果的だと語ります。また、お金を「使うお金=生活費」「貯めるお金=目的あるお金」「増やすお金+備えるお金」の3つに振り分けるなどの具体的なティップスも!
資産形成:金融商品は3つの観点から選ぶ
最後は「資産形成」です。「預貯金」と「投資」の違いという基本から、金融商品は「安全性」「収益性」「流動性」の3つの観点から考えることが重要で、これらすべてが◎という商品は存在しないこと、特に「ローリスク・ハイリターンの金融商品は存在しません」と強調。資産運用における「リスク」をきちんと理解し、自分の目的に合った商品を選ぶ必要があると語りました。
リスクを抑えて資産形成するには「長期・積立・分散投資」の視点が必要。リスクを抑える方法としての「定額購入(ドルコスト平均法)」や「分散」の考え方などを解説します。その後、資産形成に適した制度としてNISAとiDeCoを紹介。両制度の対象者や投資可能額、商品の違いについても詳しく解説し、近いライフイベントのお金の準備にはNISA、老後のお金の準備にはiDeCoと、目的に応じて使い分けることが重要とのことです。
第一部の最後には、参加者からの質疑応答タイムも。金融商品のリスクに関してや、iDeCoの税金に関することなど、具体的な内容の質問が飛び出し、参加者の方たちの真剣さがうかがえました。
新作落語『フィッシング詐欺』で、詐欺の手口を勉強

第二部は、銀行員・警備会社幹部を経て「ベンチャー落語家」として活動中の参遊亭遊助氏による落語の口演が行われました。テーマは「フィッシング詐欺」!
書き下ろし新作落語『フィッシング詐欺』
「鶴の恩返し」をモチーフにした、助けたのが鶴ではなく実は“鷺=サギ”だった!?というような小話を話のマクラに、物語は進んでいきます。「高収入の配達仕事がある」という広告で、人を集めている「フラウドインターナショナル」なる会社(fraud=詐欺)。テレグラムのビデオチャットで応募者とやりとりをし、身分証明書を送らせてほくそ笑む担当者…実は応募先は「会社」ではなく、さまざまな詐欺を行っている集団なのでした。振り込め詐欺や押し込み強盗、投資詐欺、国際ロマンス詐欺…新たに加わった「新人」に、そこで行われている詐欺について担当者が次々と解説していきます。部署ごとにしっかり編成されたその様子は、まるで一企業のよう?
新人が配属されることになったのは「フィッシング事業部」。“釣り”ではなく、フィッシング詐欺を行う事業部です。「『あなたのクレジットカードが不正に利用されています』とかな、ドキッとさせるような言葉を使うのがコツなんだよ」と、新人に懇切丁寧にフィッシング詐欺の手法について解説していく担当者。2023年の不正送金の額は87億円、クレジットカードの不正利用の額は505億円というような数字も飛び出し、笑わされながらもその被害実態の大きさに驚かされます。
パスワードの使い回しはダメ。二段階認証とかやられると詐欺ができない。クレジットカード明細をまめにチェックされると気づかれやすくて…など、懇切丁寧にフィッシング詐欺の対策について解説していったところで、実は「新人」の正体は…というきれいなオチがついたところで、新作『フィッシング詐欺』は終わり。参遊亭遊助氏は、社史や地域の歴史などを落語にした創作落語を得意し、この作品はこのセミナーのために作り上げられた「新作」とのこと。笑わされながらもためになる、その内容に客席から拍手が起こりました。
古典落語『壺算』
まだ時間があるとのことで、遊助氏からもう1席。今度は『壺算』という演目です。二荷入りの水瓶が買いたい弟分に、値切りが上手という理由で頼られた兄貴分のトメさん。2人が瀬戸物屋に行くと、トメさんは3円50銭の1荷の水壺を3円に値切って買ってしまいます。不思議に思う弟分に、そのまま一度店を離れ、再び瀬戸物屋を訪れて「やっぱり二荷入りのと取り替えて欲しい」と交渉。さっき3円で買ったから二荷入りは6円でいいだろう、さっき3円を払ってここに3円の水瓶があるから、合わせて6円だと言ってまんまと二荷入りの水壺を受け取ってしまうのです。首をひねる店主…というような内容。
軽妙なやり取りに客席からはたくさんの笑いが起こりつつ、古典落語の演目ながらまるで今の時代にもありそうな詐欺の手口に驚かされます。噺が終わると客席からは大きな拍手が沸き起こり、この日のセミナーは大盛況のもと終了しました。
『詐欺を仕掛ける側』の視点から
終演後、遊助氏にお話を伺いました。
「『フィッシング詐欺』は、以前『振り込め詐欺』をテーマに落語を作ってほしいというリクエストを受けたことがあり、その時の経験から『詐欺を仕掛ける側』から描いたらどうかな?と思って創りました。『国際ロマンス詐欺』のくだりなどでお客様から笑いが起こって、皆さんにも身近なんだなと思いましたね(笑)。時間的にもう1席を考えた時に、詐欺をテーマにしたもので思い出したのが『壺算』。騙されているのに、ぼーっと聞いていると『そうだなぁ?』となってしまう、そういうことは昔からあるということですね。私もこの間、OSのアップデートのお知らせメールが詐欺かどうか、さんざん悩まされました(笑)。みなさんもフィッシング詐欺にはご用心を!」
フィッシング詐欺について、家族で話すきっかけに
今回のセミナーの企画および司会・進行を担当したマネックス証券 マネックス・ユニバーシティ室 和田真弥は、「フィッシング詐欺というものがあると認識していても、実際にどういうものか理解していないと引っかかってしまう可能性があります。落語を聞くことで、頭の中でいろいろなキャラクターが動き出すような感覚があり、印象に残りやすいと感じました。家に帰ってからも『今日はこんな落語を聞いた』と話題にしてもらえるきっかけにもなると思いました。お客様からも『落語と金融の組み合わせが意外で面白かった』など、ポジティブな感想が寄せられました。また、このような機会が設けられるとうれしいですね」と語りました。
わかりやすい解説と、楽しく笑いながらの注意喚起。多くの方に満足いただいたセミナー開催となりました。
取材・文/川口有紀
企画・編集/マネクリ編集部(藤村恭子)
撮影/和田咲子
