金利差で説明できなかった先週のユーロ高値更新

ユーロ/米ドルは先週(6月9日週)後半大きく上昇し、4月に記録したこの間の高値を更新、一時1.16米ドル台に乗せた。ただこの動きは、独米金利差(ユーロ劣位・米ドル優位)ではうまく説明できるものではなかった。独米金利差は、短期、長期ともに5月以降は基本的にユーロ劣位拡大傾向が続いているが、それを尻目のユーロ高・米ドル安となった(図表1、2参照)。

【図表1】ユーロ/米ドルと独米2年債利回り差(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表2】ユーロ/米ドルと独米10年債利回り差(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

4月の「悪い米金利上昇」や投機ユーロ買いとも違う

金利差の動きと大きく逆行する形でユーロ高・米ドル安が急拡大したのは、4月初めトランプ米大統領の相互関税発表をきっかけとした、いわゆる「関税ショック」で見られた。この時は、株価急落の中でも、本来なら「安全資産」とされる米国債が売られたことで、米国債利回り上昇が米ドル買いにつながらず、逆に米ドル売りとなったことで「悪い金利上昇」が起こった(図表3参照)。ただ先週の場合は、米金利も低下傾向が続いたことから、「悪い米金利上昇」で米ドル安・ユーロ高になったということでもなかった。

【図表3】ユーロ/米ドルと独米10年債利回り差(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

金利差変化を無視した形で為替相場が大きく動いた例としては、2024年7月にかけて161円まで米ドル高・円安が広がり「歴史的円安」と呼ばれたケースがあり、この時の主役は短期売買を行う投機筋の円売りだった。

ただ今回の場合、投機筋がユーロ買いの急拡大に動いている感じもない。例えば、CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のユーロ・ポジションは、足下で9万枚程度の買い越しだが、これは特にユーロ「買われ過ぎ」というほどのものではない(図表4参照)。

【図表4】CFTC統計の投機筋のユーロ・ポジション(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

「不思議のユーロ高」、背景は長期資本の「米ドル離れ」?

以上のように見ると、先週にかけてのユーロ高値、米ドル安値更新の動きは、なかなかうまく説明できる理由がないという意味で、「不思議のユーロ高」ということになるのではないか。金利差変化や投機筋の動きでも説明できないユーロ高の背景としては、長期資本の影響が注目されそうだ。

トランプ米大統領の政策への不信感から、米ドルの信認が低下、対米投資を見直す動きが本格化しているとの指摘は少なくない。そうした長期資本の「米ドル離れ」、欧州への資金回帰の動きがユーロ高・米ドル安を後押しているなら、この流れは息の長い動きになる可能性があるのではないか。