米国、ESG株主提案「急激に減少」
6月の株主総会シーズンが近づくにつれ、日本企業にも気候変動やガバナンスに関する株主提案の提出が発表されている。かたや、米国や西側諸国ではトランプ氏が政権に返り咲き、ESGへの逆風が本格化してから最初の株主総会シーズンのピークを迎えている。
株主擁護団体のAs You Sawらが株主総会シーズンの見通しをまとめた報告書 “Proxy Preview” によると、2025年2月21日現在、環境、社会、持続可能なガバナンス(ESG)に関する株主提案は355件提出されている。2025年は前年比で34%の減少となっているという。2022年から2024年まで、ESGに関する議案は毎年500件以上提出されてきたが、2025年は「急激に減少していく」とのことだ。
As You Sow は提案減少の理由の1つとして、「SEC(米証券取引委員会)がESG提案に対してより厳しい態度を取るようになり、長年認められてきた提案も2025年は却下されるようになっていること」を挙げている。また、ESGそのものに政治的な圧力がかかることから、企業は株主との事前対話を強化し、株主との議論が公のものになることを避ける動きも広がってきている。株主から提案が提出される前に、企業側が自主的に改善策を示すケースも増えているという。
過大な反ESGに反発する動きも、ウォルト・ディズニー[DIS]のケース
2023年ごろから目立つようになった反ESG議案だが、過度なものについては企業が受け入れないことを明確に示し、株主の多数も思いを同じとする事例も誕生した。ウォルト・ディズニー[DIS]は、性的少数者(LGBTQ+)への取り組みを評価する外部調査「企業平等指数(Corporate Equality Index, CEI)」への参加をやめるべきだとする株主提案が提出されていた。しかし、企業側は株主に反対票を投じるよう呼びかけ、2025年3月20日開催の年次株主総会では、99%の株主が反対の意思を示し否決された。
また、政治的な圧力を避けるために、企業側も多様性、公平性、包摂性、アクセシビリティ(DEIA)に関する施策を取りやめるなどの動きもあるなか、イリノイ州の司法長官を務めたクワミ・ラウル氏はAs You Sow の報告書で、次のように述べている。
「反株主運動は、企業が社会と環境への影響を無視すればより多くの利益を上げるという口実に頼っています。この反株主的な姿勢は、企業行動が企業と投資家が依存する経済を支えるシステムを脅かすことを示すデータを無視しています。例えば、人種差別は米国経済に今後5年間で5兆ドルの損失をもたらすと予測されています。さらに、最近の調査では、気候変動に取り組まなければ、世界経済は早ければ2070年にもGDPの50%の損失に直面すると示されています」
オーストラリア、国政は「反トランプ」に腐心
オーストラリアでは5月3日に総選挙が行われ、アルバニージー首相率いる与党の労働党が勝利を収めた。一方、自由党党首のダットン氏は政府のDEI(多様性・公平性・包摂性)担当職員について「豪州の一般市民の生活改善に全く役に立っていない」と当選後の解雇を訴えるなど、米国のトランプ氏と類似する方向性の政策をアピールした。しかし、ダットン氏は下院選で落選となった。
オーストラリアの有権者が抱えるトランプ政策への反発が浮き彫りとなったが、第3勢力として気候変動政策の形成に深く関与してきた野党・緑の党のバンド党首も落選確実となり、ダットン氏同様に議席を失う波乱も起きた。
オーストラリアでは「気候変動問題で取締役に圧力」事例も
一方、主要企業の株主総会で、気候変動の話題で持ち切りとなった事例も誕生した。5月8日に実施されたエネルギー大手ウッドサイド・エナジー・グループ[WDS]の株主総会では、運用資産規模が5,000億ドル超の米国の年金基金カルパース(CalPERS)とノルウェーに拠点を置く運用資産3,500億ドルのStorebrand Asset Management は、同社の取締役の選任に対して反対する意向を表明した。
とりわけStorebrandは気候変動リスク監督委員会の委員長を務める同社取締役のピカード氏に対して厳しい見方を示し、同氏の選任議案に対して「同社が化石燃料の持続的な増産に乗り出しており、反対票を投じる」とThe Australian紙に述べた。
そのほか、オーストラリアの年金基金として知られるHESTA(医療・福祉分野で働く人々が加入可能)とAware(誰でも加入可能)も、ピカード氏の選任に関して反対票を投じている。ウッドサイド・エナジー・グループは西オーストラリア州スカボローLNG開発(125億ドル規模)や米国内の他の開発によって、すでに増加が見込まれている生産量をさらに増強することを明らかにしているが、これによって、同社の持続可能性対策への投資家の反発が高まっている。株主総会では、ピカード氏の選任議案には19%の反対票が集まった。
各国の年金基金が企業に対して厳しい姿勢を見せるなか、アクティビスト投資家の活動が活発化しつつある日本の資産運用会社も、投資先企業のリスクを低減するための働きかけの強化がより求められている。