注目された関税政策への米金利の反応

トランプ政権1期目、NYダウは2018年10月から年末にかけて約2割の下落 

トランプ政権1期目では、2018年半ば頃から中国からの輸入に対する関税の賦課を決定、それに対して中国も報復に動いたことで「貿易戦争」への懸念が広がり出した。こうした中で米国株、例えばNYダウは2018年10月から年末にかけて約2割の下落に向かった(図表1参照)。

【図表1】NYダウの推移(2017年~2020年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

輸入関税の引き上げは、輸入物価の上昇によって金利上昇をもたらす可能性のあるものだ。当時のCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の米10年債ポジションを見ると売り越しが急拡大していたが、利回り上昇、債券価格下落を想定した結果と考えられた。

ところが、米国債売りは2018年9月末で一巡し、その後は買い戻しへ向かった(図表2参照)。これは、「貿易戦争」本格化を懸念し株価急落が拡大に向かうと、投機筋は関税引き上げに伴うインフレ要因より、株価急落を受けたリスク回避に反応し、「安全資産」の位置付けとなる債券は買い戻しが優勢になったことを示しているだろう。

【図表2】CFTC統計の投機筋の米10年債ポジション(2015年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2019年にかけて米金利は大きく低下、日米金利差米ドル優位も急縮小

こうしたことを受けて、2019年にかけて米金利は大きく低下に向かい、それに伴い日米金利差米ドル優位も急縮小へと向かった。さらに、2019年後半にはFRB(米連邦準備制度理事会)が、「貿易戦争」による先行き景気の急減速を回避のための「保険」という説明で「予防的利下げ」を始めた。そして、日米金利差米ドル優位は一段の縮小に向かい、その中で米ドル/円も米ドル安・円高傾向が展開した(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と日米10年債利回り差(2016年~2020年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

今後は日米金利差米ドル優位縮小によって、米ドル安・円高になるか

この2018~2019年当時に比べると、最近はなおインフレ懸念が残っている。このため、トランプ大統領の関税政策発動に対する米金利の反応が注目されたが、週明けの2月3日、日経平均株価が1,000円以上暴落する中で、時間外の米10年債利回りは低下に向かった。

その後、NY取引時間に入り、トランプ大統領がメキシコ、カナダに対する関税発動の延期を表明すると、株価は反発に転じ債券利回りも上昇した。ただし、この先も「貿易戦争」が本格化し、株安が拡大する局面では、これまでインフレ懸念などを背景に大きく売られてきた米国債のポジションは、2018~2019年の局面のようにリスク回避から買い戻される可能性が高いだろう。その場合の米ドル/円への示唆は、やはり米金利低下を受けた日米金利差米ドル優位縮小によって、米ドル安・円高になるのではないか。