投資信託についてこんな声を聞くことがあります。「基準価額が安いとお買い得」あるいは「基準価額が高いと割高」といったものです。

投資信託を買おうと思ったときに、基準価額(投信の値段)を見て「1万口当たり5万円だから割高なのではないか」とか、「基準価額が高いと、これ以上は上がらないのではないか」と考える方も多いようです。セミナーなどでも、「この投信の基準価額は高いけど、今から買って大丈夫ですか?」「〇〇投信は基準価額が高いから、口数がちょっとしか買えなくて損ですよね」といった質問を受けることもあります。

「基準価額が高い投信は割高」とは言えない理由

「基準価額が高い投信は割高」というのは、実はよくある誤解です。少なくとも投資信託に関しては、基準価額の高さと今後のリターンはほとんど関係ありません。今のように株式市場が堅調だと、基準価額が1万口当たり2万円、場合によっては5万円を超える投資信託もあります。しかし、基準価額は投資信託の良し悪しを判断する基準にはなりません。

例えば、株式に投資する投資信託では、基準価額はその投資信託の運用をスタートした時の株式相場の水準に左右されます。ここでは分かりやすいように、株価指数に連動するインデックスファンドを例に解説していきます。下の図表は、NISAのつみたて投資枠対象となっている投資信託のうち、TOPIX(東証株価指数)に連動する商品の基準価額と設定日を示しています。 

【図表】TOPIX連動型投信の基準価額と設定日 
※基準価額は2025年1月28日時点
※出所:各社WEBページから著者作成

見ていただくと分かるように、基準価額は1万口当たり1万円台のものから、4万円を超えるものまで様々です。

例えば、A~Cのインデックスファンドはこの数年(2023年、2024年)に設定されたばかりの商品で、基準価額は1万口あたり1万円台となっています。一方、P、Q、Rといったインデックスファンドは2008年のリーマンショック後の株価が低迷していたときに設定されていて、その後の株価上昇を受けて、基準価額も上昇。基準価額は1万口当たり4万円台となっています。

つまり、基準価額の差はスタートのタイミングの違いが大きいことが分かります。また、どのくらい分配金を払い出したかによっても、基準価額は変わってきます。分配金を支払うと、その分、基準価額が下がるためです。

基準価額はこれからを占う数字ではない、それ以上に大事なこととは?

上の表に示したTOPIX連動型のインデックスファンドの基準価額は1万円台から4万円台まで大きな差があります。しかし、いずれもTOPIXという株価指数に連動して動く設計になっているので、これから先の値動きはほとんど同じになります。もちろん、コスト等の違いなどにより実際には指数とのかい離率に差が出ることや、リターンにも多少の差が生じます。ただ、基準価額が4万円台の投資信託が、基準価額1万円台や2万円の投資信託よりも価格が上昇しにくいといったことはありません。

アクティブ運用の投信についても、基本的な考え方は同じです。むしろ、基準価額の高い投信は頻繁に分配金を出さず、比較的パフォーマンスの良いものも多い印象です。そして、アクティブ運用の投信の場合、組入銘柄(日本株投信であれば、投資している会社)が変化することもあります。例えば、運用担当者が割高になった株を売り、割安な株を組み入れるといった調整を行うこともあるからです。そのため、単純に投信の基準価額を見て、割安・割高といった判断はできないのです。
 
このように、「今、基準価額がいくらか」という点は、投信を選ぶときのポイントにはなりません。むしろ、基準価額が「どう推移してきたのか」を確認することの方が重要です。そして、それ以上に、投資対象、どこの・何に投資する商品なのかをしっかり理解すること、アクティブ投信であれば投資哲学や投資プロセス、組入銘柄(ポートフォリオ)などをしっかり確認することが大事です。