トランプ大統領が帰ってきました。

就任前からその言動にマーケットが右往左往する局面がみられましたが、貴金属市場にも警戒する動きが広がっています。貴金属のEFPとリースレートが上昇しているのです。

EFPとは、『Exchange of Futures(先物) for Physicals(現物)』の略です。つまり先物と現物の交換取引のことです。今、このレートが理論値からかなり乖離しているのです。具体的にゴールド市場で説明します。

COMEXの金先物取引の主要限月価格とスポット市場のロコ・ロンドン価格が先週末時点で47ドルも乖離しました。スポット価格よりも先物価格のほうが高くなるのは自然なことですが、通常理論的には3ドル弱程度です。これが47ドルにも跳ね上がっている背景には、トランプ2.0による関税が貴金属市場にも適用されるのではないかという警戒によるものとみられます。

もし、輸入するゴールドなどの貴金属にも関税がかけられることとなれば、こうしたスポット市場と先物市場の裁定取引でも関税分を考慮せねばならないのでは?と警戒するプレイヤーが先物市場でのショートポジションの買い戻しに動いているとみられます。先物市場のショートカバーが理論値を超えたEFP上昇につながっているということですが、同時にリースレートも上がっています。

リースレートとは、ゴールドの貸し借り市場での金利のこと。一般的にはゴールドには金利がつかないとされていますが、厳密にいうとゴールド市場には現物を貸借するマーケットがあり(Loco London account)、金利が存在します。ただしその金利は長期にわたって1年物でも0.5%以下と低金利であることから、ドル金利5%などと比較すると話題にもならないというだけのこと。ところが、先週金曜のゴールドの1年物のリースレートは1.64%にまで跳ね上がっています。借り手が多いと金利があがりますね。つまり現物需要が旺盛なのです。

先週木曜日、現物市場の中心地であるロコ・ロンドンからCOMEXへ移送されたゴールドは31トンにものぼった模様。関税がかけられる前に現物を引いておこう、というと考える投資家らの動きが活発化していることがリースレートの上昇につながっているのです。同様のことがシルバー、プラチナなど他のメタル市場でも起こっています。

トランプ大統領は現在までのところ貴金属輸入に関税をかけるなどという話はしていませんし、そうなる可能性は高くないと見る専門家が多いですが、それでも市場が警戒を強めていることが、EFPやリースレートから窺い見ることができます。そしてこれらはゴールドなど貴金属の上昇圧力につながるものです。貴金属への関税付加がないことがはっきりするまではこうした状況が続きそうです。