2024年1月4日(土)0:00発表(日本時間)
米国 ISM製造業景気指数
【1】結果: 9ヶ月連続で景気縮小圏となるも市場予想を上回り前月から改善
12月の米ISM製造業景気指数は49.3と市場予想の48.2を上回り、前月の48.4から改善を示しました。景気の分岐点となる50を9ヶ月連続で下回り、米国の製造業は景気縮小圏内での推移が続いていますが、米大統領選後には底入れし、景気拡大圏への回復の兆しが見え始めています。
一方、経済全体では、一般的に42.5以上を記録すると景気拡大とみなされますが、今回で56ヶ月連続の景気拡大を示しました。
※製造業の拡大・縮小を判断する基準値は50ですが、製造業が経済全体に占める割合は1割程度であることから、指数が50を下回ったとしても、経済全体としては必ずしも縮小を意味するわけではありません。米供給管理協会の回帰分析に基づく調査によると、過去のISM製造業景気指数と米国GDP成長率の関係から、指数が42.5を上回れば、一般的に経済全体(GDP)は成長していると解釈されます。

【2】内容・注目点:需要は好調で生産も拡大圏へと回復 雇用は低下も「健全な水準」
そもそもISM製造業景気指数とは
ISM製造業景気指数は、全米供給管理協会が製造業300社以上の仕入れ担当者に生産状況や受注状況、雇用状況等の各項目についてアンケート調査を実施し、その調査を基に製造業全体のセンチメントを指数化した指数です。
企業のセンチメントを反映しており景気転換の先行指標とされること、また主要指数のなかでは最も早く発表されることから注目が集まります。
12月結果の詳細・内訳

景気の先行指標の新規受注は2ヶ月連続で拡大
図表2の通り各項目を見ると、景気の先行指標とされる新規受注は、前月比2.1ポイント増の52.5となり、前回8ヶ月ぶりに拡大圏へ回復した11月に続き、今回も拡大圏を維持しました。大統領選を経て目先の不確実性が解消されたことが、受注再開を後押ししているものと考えられます。
生産は7ヶ月ぶりに拡大し、受注-在庫バランスも今後の安定的な生産を示唆
受注の増加に応じて、生産指数も前月から3.5ポイント上昇して50.3となり、5月以来7ヶ月ぶりに拡大圏へと回復しました。図表3の通り受注-在庫バランスを見ても、新規受注が在庫を上回っていることから適正な水準にあるといえ、今後も安定的な生産の増加が見込まれます。

雇用指数は前月から低下も「健全な水準での縮小」
生産指数が上昇した一方で、雇用指数は前月比2.8ポイント低下し45.3となりました。雇用指数は前回には底入れの兆しが見られたものの、今回は再び下落となり、製造業における労働市場の冷え込み基調が続いていることがうかがえます。
ただし、ISM製造業調査委員会のフィオーレ委員長は、雇用指数の低下について「計画的なもので、企業が人員規模の適正化を進めた結果」と説明しています。また、「このプロセスは企業が収益計画に適合する体制を整え次第、まもなく終了する見込みである」とも述べており、「健全な水準での縮小」と評価しています。

入荷遅延は拡大圏へと回復 54が今後の一つの目安
入荷遅延指数は前月比1.4ポイント上昇し50.1となり、拡大圏へ回復しました。この指標が上昇する背景には、需要の好調による納品遅延やサプライチェーンの混乱が考えられますが、直近ではサプライチェーンに特段の問題は見られないことから、今回の上昇は単純に需要の回復を示す兆しと捉えられるでしょう。
フィオーレ会長は、入荷遅延指数が54ポイント前後に達すれば需要が本格的に復調した証明となるとの見解を示しており、54を一つの目安として来月以降の数値にも注目です。
支払価格指数は再び上昇
総合指数の構成要素以外では、支払価格指数が前回の50.3から52.5に上昇しました。インフレ再加速が直ちに懸念されるほどの水準ではないものの、需要の増加に応じて再び支払価格指数は上昇基調にあります。
また、トランプ次期政権では関税強化や移民制限(供給制約)などによるインフレ再燃のリスクも指摘されており、来年以降も引き続き支払価格指数は重要な指標となりそうです。

【3】所感:米製造業は底入れの兆しも気になる米金利の高止まり
米製造業の景況感は依然として縮小圏内にあるものの、大統領選後に底入れの兆しが見え始め、間もなく拡大圏への回復が期待される状況です。
今回の市場予想を上回る結果を受け、この日の米国株式市場は反発し上昇となりました。一方で、堅調な経済指標を背景に2025年の利下げ期待は後退しつつあり、米長期金利は高止まりしています。
1月7日(火)24時にはISM非製造業景気指数が公表予定で、市場予想では前回の52.1から53.5への上昇が見込まれています。非製造業でも堅調さが確認されれば、米金利にさらに上昇圧力がかかる可能性があるでしょう。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐