先週(12月16日週)の動き:NY金FRBのタカ派傾斜を受け一時2,600ドル割れ、国内金価格は日銀利上げ見送りによる円安にサポートされる展開
先週(12月16日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週初12月16日から連日売り優勢の流れとなり、前週末から6営業日続落し、週末12月20日は反発して終了した。終値は2,645.10ドルで週足は前週末比30.70ドル、1.15%の反落となった。
12月17~18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、週前半は値幅の小さいレンジ取引で模様眺めの展開に。その後、FOMCの結果が予想を上回るタカ派的な内容となったことを受け、売りが先行する流れに転じ、下げ幅は拡大。荒れた値動きとなった。
12月18、19日は一時、節目の2,600ドルを割れ1ヶ月ぶりの安値を付けた。週末12月20日は、発表された11月のインフレ指標が前年同月比で加速したものの、前月比では鈍化し市場予想も下回ったことから押し目買いに反発。折しもこの日に期限が到来した2025会計年度のつなぎ予算の議会審議がこう着し、政府機関の閉鎖が懸念される政治リスクの高まりの中で、NY金は買われた。
FRB利下げサイクル一区切り、利下げ停止視野に
注目のFOMCで発表された0.25%の利下げは、ほぼ100%織り込み済みで、FOMCメンバーによる金利・経済見通しの分布図(ドットプロット)中央値が示す2025年利下げペース鈍化も織り込まれていた。ただその内容が2025年の利下げ回数2回と、前回9月の見通しの4回から半減することまでは読んでいなかった。3回の利下げを見込む向きが多く、タカ派的との受け止め方が広がった。
さらにパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の「われわれは良い状況にあるが、ここからは新たな段階で、さらなる利下げには慎重になるだろう」という記者会見での発言が追い打ちをかけた。9月の2倍速(0.50%)利下げを皮切りに、11月そして今回と連続して0.25%の利下げをしたところで、「新たな段階に入った」との表現で政策的に一区切りつけることを示唆した。声明文に新しく加えられた「今後もたらされるデータ、変化する見通し、リスクのバランスを慎重に評価する」との文言と合わせて、年明け1月28~29日の次回FOMCで利下げを一時停止するための布石を打ったとの見方が生まれた。
さらにパウエル議長は今回の利下げ決定は、「かなり微妙な判断」だったとした。実際にクリーブランド地区連銀のハマック総裁は据え置きを主張し利下げに反対票を投じた。9月の利下げはボウマン理事が反対票を投じ物議を醸したが、年明け早々にスタートするトランプ第2次政権の政策もあり、FRB高官の間でインフレ再燃への警戒感は強いとみられる。今回のFOMCは議長はじめ中枢メンバーもタカ派的スタンスに歩み寄る転機となったとみられる。
2025年利下げ回数減少でFRBに時間的余裕も
今回のFOMCを受け2025年の最初の利下げは3月以降になると見られるが、FRBにとってはトランプ次期政権の関税をはじめその他の政策の進展動向や予定を見極める時間的余裕が生まれることになり、政策方針を決めやすくなる利点もありそうだ。
こうした内容を受け12月18日の声明文発表以降のNY金は時間外取引で大きく水準を切り下げた。時間外取引は、当日の通常取引終値の2,653.30ドルに対し53.70ドル安の2,599.60ドルで終了した。先週(12月16日週)のNY金のレンジは2,596.70~2,683.40ドルとなった。想定レンジを2,630~2,680ドルとしていた。下振れはFOMCの内容を受けたもの。
一方、大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、植田日銀総裁の会見を受け、利上げのハードルが高いことが再認識され円安が加速。NY金の下げは円安で相殺されJPX金の下げは限定的なものとなった。週末20日の引値は1万3196円、週足は前週末比75円、0.57%安となった。レンジは1万2886~1万3292円でほぼ想定(1万2800~1万3300円)内に収まった。
12月20日、金ETF(上場投信)残高急増
12月20日、金ETF(上場投信)の最大銘柄「SPDR(スパイダー)ゴールドシェア」の残高が1日で16.66トンもの増加を見た。これは1日の資金流入としては2022年1月21日の27.59トン以来の規模となるものである。
当初の暫定予算案が野党民主党のみならず共和党の保守強硬派の反対(造反)により成立せず、2度の修正を経て(結果的に)21日未明まで成立しなかったことから、逃避資金が流入したものと思われる。
12月20日の期限までに成立しない場合、一部政府機関の閉鎖などが想定されていた。その際には、週明けにも議会運営機能の障害を理由とした米国債の格付けの引き下げも想定できた。以前から米格付け会社ムーディーズが最高格付けから1ノッチ格下げ方向のスタンス(ネガティブ・ウォッチ)を敷いていることによる。その場合、ドル売り株安など金融市場の混乱が予見できたことから、ヘッジ買いが金ETFに入ったとみられる。
今週(12月23日週)の見通し:NY金は2,590~2,645ドル、JPX金は1万2900~1万3350円を想定
今週(12月23日週)はクリスマス休暇で欧米市場は取引量も低下するとみられる。NY金の手掛かり材料となる米経済指標も限られる。状況により買い手掛かりになるとみられた2025会計年度の新たなつなぎ予算を巡る審議は、前述のように12月21日未明に暫定予算が成立した。2025年3月14日まで政府の運営資金は確保されることになった。
ただし、今回の合意に至る一連の流れは、ホワイトハウスおよび上下両院ともに共和党が掌握するいわゆるトリプルレッド状態にあっても、なお予算審議を巡る不透明要因が残ることを示した。金ETFへの買い急増は米政治リスクの上昇の際の動きとしては注目に値する。
危機が回避されたことで今週のNY金は2,600ドル台前半を中心としたレンジ相場となりそうだ。一方、先週(12月16日週)は一時157.93円(ファクトセット)まで円安が進んだことで、市場では為替介入を警戒する見方が浮上している。
今週(12月23日週)のNY金は2,590~2,645ドル、JPX金は1万2900~1万3350円を想定している。