衆院選も最終盤戦に入った。最新の情勢調査によると与党の過半数維持はますます不透明な状況にあるようだ。ここでは選挙結果を4つのシナリオに分け、その場合の市場の反応を提示する。
シナリオ1:自民党単独での過半数確保 確率5%
「全289小選挙区のうち優勢は110程度で、40以上の選挙区で激しく競り合う。比例代表でも序盤の勢いは失われ、60議席前後にとどまる公算が大きい」(毎日新聞)
「自民は全289選挙区のうち議席獲得が「有力」だったのは序盤から微減の3割ほどにとどまった。「優勢」まで含めると5割弱となる。全国11ブロックで争う定数176の比例代表も前回2021年に獲得した72議席を10議席超、減らす見通し」(日経新聞)
各メディアによる終盤の情勢調査をもとにした、あくまで当て推量だが、
小選挙区で5割弱(140議席) + 比例60議席 = 200議席
というのが中心線か。いずれにせよ自民党単独での過半数割れはほぼ確実だとみられる。ただ、選挙はみずものである。まだ態度を決めかねている有権者も相当数いて、最後までどう転ぶかわからない。万が一、自民党が単独の過半数を維持すれば、それは「サプライズ」なので株価は上昇するだろう。与党での過半数割れに備えてヘッジ売りをしていた向きの買戻しも誘って大幅な上昇となるだろう。
シナリオ2:与党(自民・公明)で過半数確保 確率40%
これがメインシナリオである。上記シナリオ1で示した中心線、自民党200議席から若干の上ぶれ(例えば小選挙区143+比例60=203)に公明党の議席減が2にとどまって30獲れば、自民・公明で233の過半数は維持できる。
いまのところは、これが大方のメインシナリオだろうから、実際にこれが実現してもサプライズはないため、株価も無反応だろう。与党での過半数割れが避けられたという点では、一息つけるので、株価は下がらないまでも、上昇には至らない。勝つには勝ったということには違いないが、自民党単独では惨敗だろうから、選挙後の石破さんの党内の立ち位置がどうなるか、それによって石破政権が来夏の参院選までもつか、など不透明感は晴れないからだ。ただ、株価は無反応と述べたが、あくまでも政治ファクターでは動かないということであって、為替や企業業績などファンダメンタルズによって当然、株価は変動する。
シナリオ3:与党(自民・公明)で過半数割れ、ただし小幅 確率35%
これはメインシナリオの下振れパターン。実際には与党の議席数の予想は過半数前後だから、シナリオ2と3を併せて全体の4分の3(75%)を占め、そのなかでシナリオ2と3が拮抗するようなイメージだ。上記シナリオ1で示した中心線の自民党200議席に、公明党30議席という仮定でも、与党で過半数を割ってしまう。むしろこちらのほうがメインシナリオか?という感じもする。
この場合は、当初のニュースのヘッドラインで海外勢は売ってくるだろう。与党が政権維持できないというのはビッグニュースだからだ。
しかし、株価の下げは限定的だと思われる。その理由は、
1.すでに与党の過半数割れの可能性が喧伝され、株価にも織り込み済みであること
2.立憲民主党が議席を大幅に伸ばしても野党がまとまっていないので、自民党を外した政権交代にはならないこと
3.過半数割れでも小幅にとどまれば、無所属議員の取り込みなどで過半数を確保することが可能であること
である。
シナリオ4:与党(自民・公明)で大幅に過半数割れ 確率20%
これがいちばんマーケットに衝撃を与えるだろう。しかし、上記の1,2の理由は共通なので、やはり下げは限定的だろう。このケースの問題はどう連立を組むかである。野党の中で保守系は日本維新の会と国民民主党だが、自民党が組みやすいのは国民民主党だろう。国民民主党は公示前の7議席から大幅に伸ばして20議席をうかがう勢いと観測されており、これを取り込めば与党の政権は維持できる。
国民民主党の玉木代表は、衆院選後に自民、公明両党の連立政権に加わる可能性を明確に否定しているが、選挙前の時期においては当たり前すぎるくらいに当然である。ただし、「政策本位でやっていく。いい政策には協力する」とも語り、政策ごとに政権に協力する「パーシャル(部分)連合」の可能性は否定していない。
国民民主党のキャッチコピーは「『対決より解決』で日本を動かす」である。やりたい政策を実行するには政権に加わったほうがいいに決まっている。その辺りのことを踏まえて現実的な選択をするのではないかと思う。
国民民主党の公約・主張はかなり経済・ビジネスにフレンドリーかつ現実的だ。特に「原子力発電所の建て替え・新増設により、輸入に頼らない安価で安定的なエネルギーを確保する。データセンターや半導体工場の新規建設による電力需要の大幅増加を見据える」というエネルギー政策は今の日本の実際的な解だと思う。消費と投資を拡大し、持続的な賃上げを目指すというのもわかりやすい。
国民民主党との連立は、かえって日本経済、ひいては株式市場にとってポジティブ - そのような認識がじわりと広がっていくのではないか。そうなれば、当初はネガティブ・サプライズで売られるかもしれないが、その後、株式市場は上昇するだろう。実は、このシナリオ4が、いちばん株価が上昇するシナリオではないかと考えている。