2024年10月3日(木)23:00発表(日本時間)
米国 ISM非製造業景気指数

【1】結果:市場予想・前回結果いずれも上回りサービス業の活況ぶりを示す

ISM非製造業景気指数(9月)
結果:54.9 予想:51.7
前回:51.5

9月の米ISM非製造業景気指数は54.9を記録し、市場予想と前回結果を上回る結果となりました。好不調の境目とされる50を3ヶ月連続で上回り、2023年2月以来の高水準です(図表1)。

【図表1】ISM非製造業景気指数の推移
※シャドーは景気後退期
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【2】内容・注目点: 需要は好調ながら雇用は再び縮小圏に

そもそもISM非製造業景気指数とは

ISM非製造業景気指数とは、全米供給管理協会(ISM=Institute for Supply Management)が400社以上の購買担当者を対象にアンケート調査を実施し、その結果を指数化したものです。総合指数は、事業活動・生産、新規受注、雇用、入荷遅延の4つのサブ項目から構成され、50以上は景気拡大、50以下は景気後退を示唆します。

その他、総合指数の構成要素以外に、在庫や受注残に関する項目や、インフレ指標として注目される支払価格指数が報告されます。米国経済ではサービス業の占める割合が大きいため、この指数に注目が集まります。

9月結果の詳細・内訳

今回9月の結果は54.9を記録し、前回から3.4ポイント上昇しました。3ヶ月連続で好不調の境界線である50を上回り、拡大圏での推移が続いています(過去21ヶ月中19ヶ月で拡大圏)。

【図表2】ISM非製造業景気指数、各項目の結果まとめ
※太字は総合指数の構成要素、青色の網掛けは今回の注目ポイント
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

図表2に示されている通り、今回の総合指数の主な上昇要因は、事業活動・生産指数および新規受注指数がそれぞれ6ポイント以上の急上昇を記録したことです。

先行指標とされる新規受注は、6月に縮小へと転じましたが、7月には拡大圏に復帰し、今回で3ヶ月連続の拡大となりました。新規受注からサービス業の需要が依然として健全であることが分かります。

また、受注増加に伴い、事業活動・生産も好調で、9月に事業活動が好調と報告した業界は12業界と前月の9業界から増加しています。回答者からは「2024年に入って最も忙しい」との声もあり、活況ぶりがうかがえます。

こうした需要の増加に伴い、入荷遅延指数も50を上回りました。入荷遅延指数は唯一の反転指標であり、この指数が上昇(低下)するということは、仕入れ先からの配送が遅延している(遅延せずに届く)ことを意味します。旺盛な需要に応えられず入荷が遅延している場合や、サプライチェーンの混乱等により上昇しますが、今回の場合は、新規受注や事業活動・生産の急上昇が背景にあり、単純に需要増加により入荷が遅延しているものと推察されます。実際、回答者のコメントでも「供給や物流の制約が緩和され、材料はより手に入りやすくなっている」と述べられており、サプライチェーンには問題ない様子です。

一方で、需要の増加に反して雇用は縮小圏に入っており、直近の失業率の上昇と相まって、労働市場の冷え込みが懸念されます。ただし、中身を詳しく見ると9月に従業員を減らしたと回答した企業の割合は14.4%で、8月の14.5%からわずかに減少しています(図表3)。

ISM非製造業調査委員会のスティーブ・ミラー委員長も「コメントと数字を見る限り、広範な雇用縮小は見られない。7月と8月に採用活動していた企業が9月に採用を終えただけの問題だ」と述べています。

【図表3】ISM非製造業雇用指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

そのほか、支払価格指数は、前回8月の57.3から9月には59.4にやや上昇しました(図表4)。この結果から直ちにインフレ再燃懸念が高まるレベルではないものの、中東情勢の悪化に伴う原油価格の高騰など不確定要素もあり、引き続きインフレ指標には警戒が必要です。

【図表4】ISM非製造業支払価格指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

【3】所感:景気後退懸念は和らぐも、不確実な要素は多くあり。雇用指数の軟化が続く中、注目は雇用統計へ

今回の結果は、米経済を支えるサービス業の堅調な景況感が示されたことから、景気後退懸念が和らぐ安心感のあるものだったと言えます。消費が活発となる米国のホリデーシーズンを控えるなか、9月には大幅利下げも実施されており、このまま活況が続くことが期待されます。

ただし、今回の調査は、米国南東部を襲ったハリケーン「ヘレン」や中東情勢の悪化が発生する前に実施されたものであり、来月以降、これらの影響で景況感が悪化する可能性があります。また、大統領選や金融政策の動向など、不確実な要素も多く、景気の先行きには引き続き警戒が必要です。

そして、市場の注目が集まる雇用情勢に関しては、9月のISM雇用指数が製造業・非製造業ともに軟化傾向を示しており、労働市場の冷え込みが懸念されています。一方、ISMの雇用指数はアンケート調査に基づくソフトデータであるため、実際の労働市場の状況を把握するにはハードデータの確認も重要です。労働市場のハードデータで最も注目の集まる雇用統計は、10月4日(金)に公表予定です。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐