大統領・議会政党別のS&P500の年間リターンから分かること
前回のコラムでは、今回の大統領選挙の焦点となっている政策について解説しました。今回は議会選挙とデータを用いて米国株の今後のリターンの見通しについて解説します。大統領選挙は2024年11月5日に行われますが、この日は同時に議会選挙も行われます。
議会は上院、下院に分かれます。上院では2年ごとに改選が行われており、2024年は100議席のうち34議席について選挙が行われます。上院の特徴としては、上院は特に重要な政策や大統領の指名承認(例えば最高裁判所判事の任命)に大きな影響を与えます。また、下院においては435議席すべてについて選挙が行われます。下院は、予算や法律の制定において非常に大きな影響力を持つと言われています。
大統領選挙に加えて議会選挙もあるということで、選挙の結果については図表2の通り6つのパターンが考えられます。
図表3は、図表2のパターンに基づいたそれぞれの場合のS&P500の平均年間リターンです。
共和党はビジネス寄りなので、共和党がホワイトハウス(大統領)と議会の両方を握ると経済にも、そして、株式市場にとってもベストな展開になると思われる読者もいるかもしれません。実はそうではなく、大統領が民主党で議会はねじれ(上院、下院が別の党支配)の場合と、大統領が民主党で共和党が両院支配という2つのパターンの時がS&P500の年間平均リターンは共に16%と6つのパターンのなかで最もリターンが高くなっているのです。
3番目にリターンが高いのが、大統領は共和党で議会はねじれの状況の時で、平均年間リターンは15%となっています。4番目は民主党の大統領に、議会も民主党で年間平均リターンは12%、5番目が共和党の大統領に共和党の議会で同じく12%です。最もリターンがよくない6番目のパターンは共和党の大統領に民主党の議会で9%と民主党の大統領に共和党の議会と比べるとリターンの差は7ポイントもあるのです。
では現在の状況はというと、民主党の大統領、議会について下院の方は民主党、上院は50/50とタイの状況です。ただこの場合、副大統領が最後のキャスティングボートの一票を持っており、民主党が上院で法案を通過させることができるため、実質は民主党が過半数を持っているということになります。ですから、現在の状況は民主党大統領、議会も民主党が抑えているというパターンとなるのです。
どちらの党の大統領が選出されるかより大切なこと
今回大統領選挙について、またそのマーケットに与えるインプリケーションについて書いてきました。短期的な視点では、新しい大統領が金融市場を動かす発言を行いそれがヘッドラインリスクになるかもしれません。しかし、実は投資家が知っておくべき最も大切な事実は図表4のデータなのです。
これは1928年からこれまでのS&P500のトータルリターン(配当金再投資のリターン)をそれぞれの異なる条件で計算したものです。民主党の大統領の際S&P500のリターンがプラスになる年の確率は57%に対し、共和党の大統領の場合は43%と先にコメントした通り、民主党の大統領の方が株価の上がる確率は高いという結果になっています。
しかし、どちらの党の大統領が選出されるかより大切なのは企業業績なのです。その年のS&P500のEPSがポジティブであった場合は67%という最も高い確率でその年のS&P500は上がり、一方業績の伸びがネガティブになるとS&P500が上がる確率は33%と減ります。米国株の方向性を決めるのは大統領ではなく企業業績という、これはある意味とてもわかりやすく且つ忘れてはいけない大切な事実といえるでしょう。
S&P500の業績予想(図表5)を見ると、2024年~2026年まで2桁の業績の伸びが予想されています。ですから、長期的な視点でマーケットの方向性を考えると、実は最も大切なことは企業業績の伸びであり、業績のガイダンス発表で大きな変化がないかを注視するということです。