モトリーフール米国本社、2024年8月13日 投稿記事より

業績不振から回復するための第一歩か?

8月13日未明、スターバックス[SBUX]から、ブライアン・ニコル氏を新CEOに起用するという衝撃的なニュースが発表されました。同氏は、2018年から外食大手チポトレ・メキシカン・グリル[CMG]のCEOを務めてきた人物です。スターバックスの株価はこのニュースを受けて急騰しましたが、これは決して過剰反応ではありません。

スターバックスの株価は2021年に付けた高値から約40%下落していました。その責任は(ほぼ)経営陣にあると言ってよいでしょう。2023年9月、長年CEOと取締役会メンバーを務め、当時3度目のCEO職にあったハワード・シュルツ氏が退任しました。同氏は4回目のCEO就任は控えたものの、退任後の同社の方向性に対して懸念を公言していました。

端的に言うと、スターバックスでは米国の店舗を中心に客足が落ちています。2023年10月から始まった同社の2024会計年度の第2四半期(2024年1~3月期)および第3四半期(同4~6月期)の米国内取引件数は、それぞれ7%減、6%減となりました。

シュルツ氏が2024年初めにソーシャルメディアへの投稿で指摘したように、スターバックスにとって業績不振はそれほど大きな問題ではありませんでした。経営陣がどれだけ優秀でも、数四半期程度の業績不振が続くことはあります。問題は、経営陣が問題を正確に特定して是正できるかどうかです。スターバックスの経営陣が正しい方向に進んでいるのか、合理的に考えて疑問がありました。

スターバックスは現在、実績のある経営者であり問題解決力のあるニコル氏に手綱を渡すことで、問題解決に向けて思い切った行動に出ています。

スターバックスの株主がこのニュースを待ち望んでいたと考える理由

ブライアン・ニコル氏が2018年にヤム・ブランズ[YUM]傘下のタコベルからチポトレ・メキシカン・グリルに移籍したとき、重責を担っていました。創業者でCEOだったスティーブ・エルス氏は、同店を2,400以上の店舗を持つ人気チェーンに育て上げました。しかし、卓越した先見性を持つエルス氏にも、試練は訪れました。チポトレのシステムとプロセスには不備が目立ち、それが食中毒事件の頻発につながりました。

しかし、ニコル氏がCEO在任中は大きな問題は起きませんでした。ニコルCEOの下で、チポトレの収益力は大きく飛躍しました。同社の利益率は2017年(ニコル氏就任前の最後の通期決算)にはわずか4%でしたが、2023年には12%超、2024年上半期には14%超となりました。この営業レバレッジは目を見張るものであり、ニコル氏のリーダーシップは大きな称賛に値します。

ニコル氏は、スターバックスのような象徴的ブランドのCEOに相応しい人物だと考えられます。それでも今回の起用が衝撃的であるのは間違いありません。というのも、ラクスマン・ナラシムハン前CEOは、2022年9月から始まった周到な継承プロセスを経て、2023年3月にCEOを完全に引き継いだばかりだからです。つまり、ナラシムハン氏は明確かつ整然とした計画に則って就任したCEOです。それにもかかわらず、同社はわずか1年5ヶ月で次の段階に進もうとしているのです。

スターバックスは新規顧客の獲得に苦戦

ナラシムハン氏によると、スターバックスは潜在顧客の心をつかむような価値を提案できなかったため、新規顧客の獲得に苦戦していました。そのため同社は売上げを伸ばすため、プロモーショナル・プライシング(値引き)により、顧客を呼び込む取り組みを実施していました。

ナラシムハン氏を突然更迭し、ニコル氏をチポトレから引き抜いたということは、取締役会はスターバックスの現在の方向性に同意していないと考えられます。シュルツ氏は、安堵していることでしょう。

ニコル氏がスターバックスで直面する状況は、2018年のチポトレCEO就任時ほど単純なものではないかもしれません。チポトレの苦境は同社の体制不備により自ら招いたものでした。しかし、スターバックスが直面する困難な経営環境は、すべての飲食業者が抱える問題です。たとえば、マクドナルドをはじめとするファストフード大手の間では現在、バリュープライシングに基づく価格競争が起きており、顧客を呼び込むためにますます価格が引き下げられています。

ただ、注目したいのは、チポトレは同業他社のようにプロモーショナル・プライシングを取り入れていない点です。そしてシュルツ氏によると、スターバックスは顧客にとって「プレミアムな存在」というポジションを強化する必要があります。チポトレが現在も高価格を維持していることからみて、おそらくニコル氏は、スターバックスでも顧客離れを起こすことなく、同業他社よりメニューを高価格に維持できるでしょう。

顧客を失望させた運営上の問題

幸いスターバックスには、ニコル氏がすぐに実績を上げられる分野があります。同社の事業の約60%は、約3,400万人のスターバックス・リワード(ポイントシステム)会員によるものです。しかし、第2四半期に、会員によるアプリの注文確定率が2桁台の落ち込みを示したと経営陣は指摘しました。つまり、アプリで注文しようとしたが、注文を確定しなかった顧客がいたということです。

スターバックスの経営陣によると、顧客は注文を確定しなかった理由として、長い待ち時間や注文の正確性を主な理由にあげていますが、経営陣はこの問題は第3四半期に改善したと述べています。

この運営上の課題を早急に解決できれば、プレミアム・ブランドのポジションの強化に大いに役立つでしょう。これはニコル氏が「受注」した最初の仕事の1つであり、今後の数四半期は大いに期待して見守ることができると思われます。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Jon Quastはスターバックスの株式を保有しています。モトリーフール米国本社は、Chipotle Mexican Grill とスターバックスの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社は以下のオプションを推奨しています。チポトレ・メキシカン・グリルの2024年9月満期の52ドルプットのショート。モトリーフール米国本社は情報開示方針を定めています。