2024年8月13日(火)21:30発表(日本時間)
米国 生産者物価指数(PPI)

【1】結果:総合、コアPPIいずれも市場予想・前回結果を下回る

【図表1】米生産者物価指数PPI(最終需要)結果まとめ
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

7月の米国生産者物価指数(PPI)は、前年同月比で+2.2%となり、前回の+2.7%や市場予想の+2.3%を下回る結果となりました。また、物価動向の風向きを確認できる前月比ベースでは0.1%と、物価の伸びに鈍化が見られました。

変動の大きい食品とエネルギーを除くコアPPIは前年比で+2.4%、前月比で±0.0%となり、いずれも市場予想と前回結果を下回りました。

【2】内容・注目点:流通業のマージン手数料がサービス価格の低下を牽引、PCE構成項目は概ね良好

そもそもPPIとは?

米PPIとは、生産者物価指数のことを指し、原材料や製品を対象に生産段階での財・サービスの価格変動を測定しています。

例えば、机などの家具で考えると、企業が机という商品を生産するために仕入れる木材や金属といった原材料の価格変動を測定するのがPPIであるのに対し、CPIは最終的に消費者が購入する際の机の価格変動を測定します。

必ずしもそうとは限らないものの、一般的に、企業が仕入れる原材料の価格変動が、最終的に消費者が支払う価格に反映されることが多いため、PPIはCPIの先行指標として注目されています。

【図表2】CPIとPPIの推移
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

PPIの項目のうち、ポートフォリオ管理費や宿泊費、外来医療費などは、FRB(連邦準備制度理事会)がインフレ指標として採用している個人消費支出(PCE)価格指数の算出に用いられるとされています。このため、PPIは月末に発表されるPCE価格指数や、今後の金融政策の動向を予測するうえでも注目が集まります。

7月結果の内訳・詳細

今回7月のPPIの結果は、総合・コア指数いずれも市場予想を下回り、インフレ鈍化の先行きが示唆される結果となりました。

【図表3】米国生産者物価指数(前月比)の内訳
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

図表3の通り、前月比での内訳を見ると、財価格は前月比+0.6%と上昇に転じました。これは、食品価格が+0.6%上昇したことや、ガソリン価格が前月比+2.8%と前回の下落(-5.4%)から大きく反発したことが主な要因です。

特にガソリン価格は、5月と6月にはマイナスに寄与していましたが、夏場のドライブシーズンに伴う需要の高まりから7月には上昇に転じました。このあたりは、8月14日に公表される総合CPI(消費者物価指数)でもガソリン価格が総合指数を押し上げるリスクとなるかもしれません。
 
財価格が上昇した一方で、サービス価格は前月比-0.2%と下落しました。サービス価格の内訳を見ると、流通業(小売・卸売)のマージン手数料が-1.3%と大きく下落しており、これが全体の下落を牽引しています。流通業のマージン手数料は、業界の利益率の指標となりますが、今回下落を示したことから、消費者が価格上昇に抵抗しており、生産者や流通業者が値上げよりも販売量の維持を優先して値引きしている(利益率は圧迫されている)ことが推察されます。
 
ただし、流通業のマージン手数料は測定が難しく不安定なため、より基調的な価格動向を把握するために「コアコア」指数にも注目が集まります。つまり、エネルギー、食品、流通業を除いた価格指数のことで、その数値は前月比+0.3%、前年同月比ベースでは+3.3%と前月の+3.2%からやや加速を示しました。
 
そのほか、FRBが金融政策の判断材料として重視する個人消費支出(PCE)価格指数の算出に用いられる項目については、ポートフォリオ管理費こそ+2.3%と上昇したものの、外来医療費は横ばい、宿泊費(-0.4%)や航空運賃(-0.2%)は下落するなど、概ね良好な数値が確認されました。

【3】所感: PPI下落で9月利下げを後押し 8月15日発表の小売売上高で消費動向を要チェック

7月のPPIはインフレ鈍化を示し、PCE構成項目も良好な結果を示したことから、9月の利下げを後押しする内容だったといえます。また、デフレ(景気後退)入りの懸念を引き起こすほどの内容ではなかったため、株式市場ではインフレ鈍化による金利低下が素直に好感され、主要株価指数は大幅に上昇しています。
 
金融政策とより密接に関連するCPI(消費者物価指数)は8月14日に発表予定ですが、市場ではやや鈍化が予想されています。予想通りインフレ鈍化が確認されれば、9月利下げの期待がさらに高まるでしょう。

しかし、9月の利下げはもはや既定路線と見られており、市場の関心はインフレ動向から労働市場や消費・景気動向へと移りつつあります。これまではCPIの下振れはポジティブなニュースとして扱われてきましたが、もし大幅に下振れした場合には、需要減退による価格低下ということが連想され、景気後退懸念からネガティブなニュースとして扱われる可能性もあります。
 
8月15日には小売売上高も公表される予定であり、米経済の約7割を占める個人消費の動向にも併せて注目したいところです。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐