2024年6月7日(金)21:30発表(日本時間)
米国 雇用統計

【1】結果: 非農業部門雇用者数は27.2万人増で予想上振れ、失業率は4.0%に上昇

5月の米国非農業部門雇用者数は前月比+27.2万人と、市場予想の+18.0万人と前回結果+16.5万人(+17.5万人から修正)を大きく上回る結果となりました。一方で、失業率は4.0%と、市場予想と前回結果(ともに3.9%)を上回りました。

非農業部門雇用者数(前月比)
結果:+27.2万人 市場予想:+18.0万人
前回:+16.5万人(17.5万人から修正)  

失業率
結果:4.0% 予想:3.9%
前回:3.9%

平均時給
(前月比)
結果:0.4% 予想:0.3%
前回:0.2%
(前年比)
結果:4.1% 予想:3.9%
前回:4.0%

労働参加率
結果:62.7%
前回:62.5%

【図表1】非農業部門雇用者数(右軸)と失業率(左軸)の推移
出所: 米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【2】内容・注目点:非農業部門雇用者数増でも失業率が上昇する訳とは?家計調査と事業所調査の差異に注目 

米連邦準備制度理事会(FRB)は、「2つの責務(Dual Mandate)」として、「物価の安定」とともに「雇用の最大化」を掲げており、失業率や非農業部門雇用者数の結果を受けて金融政策を変更することも多いため、雇用統計の結果に注目が集まります。

そして今回、5月の米国非農業部門雇用者数は、前月比+27.2万人と市場予想(+18.0万人)と前回結果(+16.5万人)を大きく上回り、労働市場が依然として堅調であることを示しました。

一方で、失業率は4.0%と、前回結果と市場予想(ともに3.9%)を上回る結果で労働市場の軟化を示し、非農業部門雇用者数の大幅増加と相反する結果となりました。

こうした差異が生じる要因として、失業率は家計調査をベースとしたものであるのに対して、非農業部門雇用者数は事業所調査をベースにした調査であることが挙げられます。つまり、家計調査では世帯ごとに何人働いているかをヒアリングするため基本的に重複は生じませんが、事業所調査では給与支払い帳簿をもとに何人に給与が支払われたかをカウントするため、仕事を掛け持ちしている人が2ヶ所以上の事業所から給与の支払いを受けている場合、統計上、2重以上にカウントされてしまうということになります。

実際、以下の図表2の通り、仕事を掛け持ちしている人の数は近年増えていることがわかります。

【図表2】複数職に就く者の数の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

こうした背景には、長引くインフレにより家計が圧迫されて仕事を掛け持ちする人や、不法移民の流入により低賃金のパートタイムとして複数ヶ所で働く人が増えているといったことが考えられます。

また、家計調査から正社員とパートタイムの増減をみると、パートナータイムが前月比で28.6万人増加している一方で、正社員は62.5万人減少しています。

以下の図表3から分かる通り、景気後退期には、黄色バーのパートタイムが増える一方で、青色バーの正社員が減少する傾向にあることがわかります。足元ではパートタイムが増加しフルタイムが減少しつつあるため、景気後退かどうかを判断する上で今後の推移に注目したいところです。

【図表3】正社員とパートタイムの前年同月比%の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

一方で、労働参加率は前月の62.7%から62.5%に減少しました。また、非農業部門の平均時給は34.91ドルとなり、前年同期比で+4.1%と市場予想の+3.9%を上回りました。前月比では+0.4%と、前月の+0.2%から上昇し、賃金の伸びに再び加速が見られます。

【図表4】労働参加率と平均時給(前年比)の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【3】所感:見出しの数値ほど中身は強くなく、タカ派とハト派双方に材料与える 

非農業部門雇用者数が市場予想を大幅に上回ったことから、米国の労働市場が依然として堅調であるとして利下げ観測が後退し、米金利は上昇で反応しました。

一方で、中身を見ると、家計調査ではパートタイムや掛け持ちが増えるなか正社員が前月比で62.5万人も減少しているなど、見出しの数値ほどの強さは感じられません。

今回の結果は、タカ派(=インフレを懸念する当局者)とハト派(=労働市場や経済の弱体化を懸念する当局者)の双方に材料を与える内容だったといえます。ただ、労働市場の健康状態について特別に警戒を要するほどの悪化は示しておらず、Fedの利下げ判断には大きな影響を与えるものではないでしょう。利下げに踏み切るためにはさらなるデータが必要といえ、6月11日、12日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)では、金利の据え置きが予想されます。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐