私も、金融業界では古株(ふるかぶ)の一人になっています。市場変動が大きい時などには、しばしば、「リーマンショックの時に比べると…」などとコメントしています。ところが、こうした先輩風を吹かせるような言動は「リーマンおじさん・おばさん」と称され、忌み嫌われるということを最近ある人から聞いて愕然としました。

確かに、若い方々にとっては、高齢者にしたり顔で昔話を頻繁にされるとイラっとするのは、若かりし頃の自分を振り返ってもよく理解できます。

しかし、やはり、「歴史は繰り返さないが韻を踏む」の格言通り、歴史は形を少しずつ変えて繰り返します。例えば、今回の円安も、1990年初頭に160円をつけたのは何がきっかけだったのか(当時の米財務省は、日本の利上げの遅れや政治経済への悲観的な見通し等を挙げています)、どうして沈静化したのか(行き過ぎの修正、主要国の共同声明等の説があります)、といったことを分析することは、今後の先行きを予想する上で極めて重要です。足元のチャートで行き過ぎやパターンを解析することも役に立つでしょうが、歴史的な転換点を知るにはそれだけでは不十分でしょう。

もちろん、過去との違いも同じくらい重要です。例えば、過去と今回は為替の取引量が全く違うとか、米国のスタンスが違うとかです。それでも、あくまで歴史のファクトをベースに、今回の特徴というフレーバーをトッピングしていくことで将来を予測する、そういうプロセスの基礎となるのは史実ではないかと思います。

足元の個別銘柄の見通し等に比べて地味な内容になるかもしれませんが、これから投資を深めていきたい方々には、ぜひ金融市場の歴史などにも興味を持っていただきたいと思います。「リーマンおばさん」の繰り言かもしれませんが、経験的にも、それが市場のトラップに陥らないための第一ステップだと信じています。