◆そろそろ、ほとぼりが冷めるころだから、もう書いてもいいだろう。今月3日、米国の雇用統計発表前に株のポジションを取ることを勧めたのだった(4月3日付けストラテジーレポート「割のいい賭け - ダウンサイド・リスクは少ない」)。当日の日経平均は高値引けで終値は1万9435円。大引けで買ったとしても、その1週間後に日経平均は2万円をつけたのだから「結果オーライ」ではある。だがストラテジストの提案としては「負け」である。

◆レポートではこう書いた。<僕にとって「得意の型」が巡ってきた。今夜発表される米国の雇用統計に賭けるものだ。> 可能性としては下振れる確率が高 い。だけどそれは織り込んでいるからダウンサイド・リスクは少ない。結果的にアップサイドの余地のほうが大きく残されている。雇用統計発表前に東京でポジ ションとるのは悪くないベット(賭け)だと述べたのだ。

◆僕は弱気な予想が出されている局面で市場がそれを織り込んでいることを読んで逆張りをするのを「得意」としている。ところが発表された雇用統計は底を突 き抜けるほどの「ネガティブ・サプライズ」。相場が上がったのは「織り込み済み」だったからではなく、あまりにも悪い数字で利上げが遠のくという思惑から であった。

◆20年間無敗の雀鬼・桜井章一氏と、麻雀最強位タイトルホルダーのサイバーエージェント社長・藤田晋氏の二人が書いた『運を支配する』には、「型を壊 す」という教えがある。<型にこだわり過ぎると、変化に対する柔軟な対応ができなくなる恐れがある。><「型にはまれば強い」ということは、裏を返せば 「その型で戦えなければ弱い」ということである。><型を惜しげもなく捨てられるかどうかが、そのひとの伸びしろを決める。> 誠に、耳に痛い金言であ る。

◆米国企業の決算発表が本格化する。今回発表される1-3月期の業績は主要企業500社ベースで前年同期比マイナス2.9%となりそうだ。リーマンショッ ク直後の09年以来となる減益である。市場では警戒感が強い。しかし、今回の決算が悪いというのは相当前から言われてきたことである。可能性としては悪い 数字が発表される確率が高い。だけどそれは織り込んでいるからダウンサイド・リスクは少ない。結果的にアップサイドの余地のほうが大きく残されている。決 算発表前にポジションをとるのは悪くないベットだ。

◆論語にこういう一節がある。過ちて改めざる 是を過ちという。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆