将棋でも碁でも柔道でも相撲でも、勝負事はすべて、「得意の型」に持ち込むまでが勝負である。「得意の型」に持ち込んでしまえば、勝敗は決したようなものである。逆説的だが、「得意の型」とは、その形 になればかなりの確率で勝ちを収められる型をいうものだからだ。

僕にとっての「得意の型」が巡ってきた。今夜発表される米国の雇用統計に賭けるものだ。

市場が注目するNFP(ノンファーム・ペイロール:非農業部門雇用者数)の前月比というデータはブレが大きい。おおもとの非農業部門雇用者数の原数値が、1億4000万人という、莫大なオーダーである。それが前月比20万人増えたの減ったの言っても、0.1%という比率。ましてや、「25万人の予想だったが20万を下回った」などというのは誤差の範囲でしかない。だから、NFPを予想してそれに賭けるというものではまったくない。そういうのは丁半博打、ギャンブルである。

僕の「得意の型」とは一見するとリスクが大きいように見えるが、実はプラスのリターンとなる領域が大きい-すなわち期待値がプラスとなるようなイベントに賭けることである。

事象としてはネガティブなことが起きる確率が大きい。しかし、そうなっても市場(投資)のリターンがマイナスとなる確率は少ない。そのギャップが儲けのチャンスである。

今朝のテレビ番組で、株式市場の見通しを聞かれた。

キャスター:今日の東京市場、どうなりそうですか?

広木:今日はイースターのグッドフライデーで欧米市場がお休みで市場参加者も少なく、そこにきて米国の雇用統計を控えているとあっては様子見気分の強い展開となりそうです。
と、いうのが一般的なコメントでしょう。でも僕はそういう「セオリー通りの展開」にはならないんじゃないかと思うんです。

キャスター:なるほど弱い数字はある程度織り込み済みだというわけですね。

広木:今晩発表の雇用統計、NFPは25万人程度の予想ですが、先行指標のADP雇用リポートが前月比で18万9000人と市場予想を大きく下回ったことから、弱い数字になるのではと警戒感が出ています。ADPだけでなくISMはじめ、このところ発表された米国の景気指標は軒並み弱い。だから雇用統計の下振れにはある程度、備えができていると言えます。予想は下回っても20万人を割らなければむしろ上出来という評価になるのではないか。

キャスター:どうしてですか?

広木:可能性としては下振れる確率が高い。だけどそれは織り込んでいるからダウンサイド・リスクは少ない。結果的にアップサイドの余地のほうが大きく残されている。雇用統計発表前に今日、東京でポジションとるのは悪くないベット(賭け)だと思います。

もうひとつのポイントは、今日の米国株式市場が休場だ、という点である。仮に悪い数字が出ても、「NYダウ平均○○ドル安の大暴落」という事態には-少なくとも今日は-ならない。市場が休みだからである。ということは、雇用統計の結果を見て、NY市場が開く前の月曜日に東京市場で手仕舞うことができるということだ。

株価が高値圏にあるときなら、こんなリスクは冒さないだろう。但し、日本株は一旦調整を見て過熱感は薄らいでいる。もうここから下値余地はあまりないだろう。売る人はすでに売ってポジションも軽くなっている。テクニカル面、需給面でも下押すリスクは少ないと言えるだろう。

(これと同等の投資アイデアについての詳しい説明は2014年2月6日ストラテジーレポート「雇用統計に賭けろ」をご参照ください)

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