◆東京で桜が開花した。「サクラサク」といえば大学の合格発表を伝える電報文。週刊誌は毎年、大学合格者ランキングの特集を組む。小欄の第 197回では大学の後輩たちの活躍を讃え、自分が在籍した当時は弱小な組織でもその後名門チームに成長することがあると述べた。これは高校の後輩諸君につ いても同じことが言える。母校・浅野高校は、僕の頃はたいした学校ではなかったが、今では東大合格者ランキングのベスト10常連校(私立男子校の部)とし て定着しつつある。

◆わが母校はベスト10圏内を出たり入ったりだが、上位5校は不動の地位を固めている。開成、筑波大付属駒場、灘、麻布、駒場東邦である。 さぞや特別な受験勉強を教え込んでいるのか、と言えばさにあらず。むしろ「ゆとり教育」とでもいうようなスタンスである。例えば、灘は週5日制で授業時間 数が少ないが、「土曜講座」が開催される。例えば、「ギリシャの三題作図不可能問題」といわれる数学の問題について、折り紙を使って解くというような講義 内容だ。

◆麻布も、土曜日に「教養総合」を開催する。そこでは唱歌「ふるさと」の4番を作詞せよ、「現在の日本の原風景とは何か?」というのがテー マになったりする。リベラルアーツ(教養)を重視しているのだ。「真のゆとり教育によって身につく骨太な学力の土台があるから、高校の最後で、大学入試の ための勉強を始めたときに、高い学力を積み上げやすい」という。(以上は、おおたとしまさ著『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』から引用)

◆長年にわたって東大合格者数トップの座にある開成は、意外かもしれないが「運動」を教育の柱に据えている。開成の運動会の盛況ぶりは有名 だし、小説やドラマにもなった「弱くても勝てます」は開成・野球部の話である。そういえば松本大も、褌いっちょうで海で泳ぐ遠泳大会を毎年楽しみにしてい る。開成=「ガリ勉」というイメージからはほど遠い。

◆こうした名門校では、目先の1点2点を稼ぐ受験のテクニックなどは教えない。人間の器量を大きく成長させるような教育をおこなう。東大合格者数の多さは、その教育の成果が存分に発揮されたひとつの結果に過ぎないのである。

◆書店に行くと、「大化け株の見分け方」「資産を10倍に増やす方法」「必勝マル秘投資術」などのタイトルがついた投資本であふれている。 中身を見ていないが、想像はつく。小手先のテクニックを指南するものだろう。その通りに実践すれば小銭は稼げるのかもしれない。しかし、日経平均が1万円 から2万円になるような大相場に乗っていくには、もっと大局を把握する見識が必要である。それを教えるのが本当の投資教育というものだろう。問題は -  誰がそれを教えることができるのか、ということである。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆