◆ロンドン消防庁の発表によると、このところ救急車の出動要請が増えているそうだ。救急隊が大急ぎで駆けつける。「どうしましたか?!」「手錠が外れなくなっちゃって」。明らかに「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」の影響である。
◆「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は、世界で7000万部という驚異的なベストセラーとなったイギリスの小説。女子大生の主人公が惹かれた 相手は、若くて有能な大富豪だがサディストの性的嗜好を持っていた...。エロティック・ロマンス、官能恋愛小説なんていう呼び方もされているが、要は 「ポルノ」である。早速、映画も作られ、日本でも公開中である(無論R指定)。観ていないが、案の定、評判は芳しくないようだ。
◆ロンドン消防庁に助けを求めてくるカップルは、おそらく小説を読んだり映画を観たりして、「その世界」を覗いてみたくなったのだろう。興味本位で 始めたところ、だんだん夢中になって鍵を失くしてしまったということではないか。なにごとも、のめり込み過ぎるのはよくない。100%熱中するのではな く、どこかで冷めた自分を維持することが肝要である。
◆「日経平均15年ぶりの高値!」「ITバブル期以来の水準に!」「2万円も射程圏内!」などと、やたらに威勢のよい言葉が連日メディアに踊ると、 思わず熱くなって相場にのめり込むひとが出てくる。一本調子で騰がり続ける相場というものはない。しっかりと「降りる」ことも考えながら相場に臨もう。ロ ンドン消防庁もこう呼びかけている。「寝室で手錠を使う際には、常に鍵を手元に置いておくように」。
◆確かに僕も「潮目が変わった」などと言ってはいるが、世界経済はリーマン危機から完全に立ち直ったとはとても言えない状況だ。世界最大級の運用会 社ピムコは、危機から回復したとしても世界は元の通りには戻らないと主張し、それを「ニューノーマル(新たなる常態)」と名付けた。ピムコの主張を退けら れる証拠はまだ何一つない。それどころか50もShades(陰)がある。主要国の「異常な」低金利を見るとニューノーマルならまだましだと思えてくる。 最悪なのは世界経済が、「アブノーマル」になってしまうことである。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆