企業業績は2桁成長
NYダウが4万ドルを突破したのは、第一に、2023年にFRB(連邦準備制度理事会)が利上げを停止し、年後半に利下げを行うという期待感が市場にあったことです。FRBはインフレを退治するために、2022年から「これでもか」と急ピッチで連続利上げを断行してきました。金利上昇で株式投資の妙味が薄れ、ダウは2022年に8.7%下落しました。しかし、2023年の利上げ停止は、市場に「これ以上金利は上がらない」「最悪の状況は脱した」という安堵感をもたらし、次は利下げへ転じるという期待感が株価を高値へと押し上げたのです。同年のダウ上昇率は13.7%に達しました。
上昇の第二の要素は、好調な企業業績です。2023年12月期のダウ構成銘柄のEPS(1株利益)は1,765ドルでしたが、市場予想では、2024年は前年比15%増、2025年は同12%増と、2桁増益が見込まれます。株価はファンダメンタルズの半年から1年先を織り込むといいます。金利が下がると言う期待感のなか、好調な業績予想を市場が織り込み株価が上昇しました。
今後、FRBによる利下げが見込まれ、企業業績も2桁の増益基調であることから、NYダウは4万ドルを超えても上昇基調をたどるでしょう。今年の予想EPSをベースにした足元のPERは19.4倍。データをさかのぼれる1998年以降、NYダウのPER平均は17.8倍だったことからすると、割高感はあります。ただ、2000年前後のITバブルの際のPERが25倍であり、今後二桁のEPS成長が見込めるのであれば、必ずしも割高ではないと考えます。
以下では、ダウに限らず米国株式市場全体について分析しますが、投資家心理もまずまずです。米国個人投資家協会のブル・ベア・レシオ(強気弱気指数)で、ブル(強気)からベア(弱気)を引いた数値は、株価が低迷していた2023年10月はマイナス圏に沈みました。しかし、直近ではプラス圏に浮上し、過去20年の平均値を上回っています。とはいえ、平均値を若干上回る程度で、過熱感はありません。
大統領選実施年は上昇率高く
さらに2024年は大統領選の年という特殊要因もあります。大統領の任期4年のサイクルでみると、選挙実施年は2番目にS&P500指数の上昇率が高く、年後半に向かって株価が上昇する傾向があります。8年前のトランプ大統領選出の際は、政治家経験ゼロの氏の政策が見通せなかったことから一時調整が起きました。しかし、今回は、バイデン大統領とトランプ前大統領の決選が見込まれており、市場は両氏の政策見通しを織り込めます。このため、どちらが大統領に選出されても大幅な調整や下落は起きにくいのではないでしょうか。
2023年以来の株価上昇を支えてきたのは「マグニフィセント7」(※)といった大型テック株への資金流入です。これら大型テックは今後も年間2桁増益が見込まれ、株価も上昇を続けることが予想されます。
加えて、「マグニフィセント7」と比べて、出遅れていた他の大型株、中小型株も上昇を始め、マーケットの裾野が広がっていることは今後の市場全体の上げにとって良い話です。特に工業セクターでは、インフラ・雇用投資法により、工場建設や機械設置など長い設備投資需要が見込まれます。
調整局面来る可能性
ただ、現在のNYダウは「買われすぎ」の側面もあります。通常、米国株は上昇基調であっても、5%程度下落する調整時期が1年間に3度ほどあるものです。何らかの理由をきっかけに一時的な調整もあるでしょうが、むしろ健全な現象であり、買いのチャンスととらえるのがいいでしょう。
(※)アップル[AAPL]、マイクロソフト[MSFT]、アルファベット[GOOGL]、アマゾン・ドットコム[AMZN]、メタ・プラットフォームズ[META]、エヌビディア[NVDA]、テスラ[TSLA]