◆水曜夜10時のテレビドラマは日テレとフジテレビが真っ向からぶつかる。日テレは柴崎コウ主演「◯◯妻」。フジは玉木宏で「残念な夫」。おまけに「残念な夫」の初回タイトルが、「◯◯する夫、こんな夫は嫌だ!」ときた。

◆在日ファンクというファンクバンドがある。「在日」といっても、いわゆる「在日」ではない。ジェイムズ・ブラウンから流れを汲むファンクを日本に在りながら(在日)再認識しようという意味だ。彼らの代表作が「マルマルファンク」。黒人が好きならエロい歌、モザイクで隠せばエロくなる、だから大事なところを◯で隠そうと思ったのだ - そんな趣旨の歌である。CDの歌詞にはないが、彼らのライブにいくと「日本人の好きな◯で」というアドリブが入る。そう、日本人は◯が好きなのだ。

◆第150回「なりゆき」で書いた内容にも通じるが、日本語ははっきり言わないのを美徳とするようなところがある。「あ・うん」の呼吸、意を汲む、空気を読む、みんな日本人が好きで得意とするところだ。

◆日銀は2015年度の物価上昇率の見通しを、1%台前半へ下方修正する検討に入ったと報道されている。原油価格の急落を受け、1.7%としていた10月時点の見通しを引き下げる。ただ、15年度中に物価上昇率が2%程度に達するシナリオは崩さない。民間エコノミストはそろって15年度に2%は無理と予想する。政府でさえ民間エコノミストの見方に同調している。孤立無援の日銀には、15年度2%にこだわる理由を明確に示してもらいたいところだが、そこは歯切れが悪い。「意を汲んでくれ」というつもりなのだろうか。

◆在日ファンクの言う通り、◯で隠したほうがエロくなる。隠されている分、余計に想像力をかきたてられるせいだろう。いっそ日銀も物価上昇率の目標を◯で隠したらどうだろう。「15年度中に物価上昇率は◯%程度に達する見通しである」と。かえって想像が膨らんでインフレ期待が高まるかもしれない。いや、待てよ、物価上昇率が0(ゼロ)%と間違って受け取られるかもしれない。◯はゼロとも読める。

◆ちなみに証券会社の符牒で◯(マル)は「キャンセルする、なかったことにする」という意味だ(「ゼロにする」が由来だろう)。「飲みに行く約束、マルにして」とか「あの件、いったんマルにしてくれ」というように使う。2%の物価目標、日銀も本音ではマルにしてもらいたいと思っているのではないだろうか。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆