◆僕も同じく50歳代、大学の非常勤講師をしているので、思わずそのニュースを熟読してしまった。大正大学の男性非常勤講師(55)が、キャンパス内で全裸になっていたところを発見された。半年前から生活をともにしていた女子学生(21)と学内で口論となり、「私に信じてほしいなら、ここで裸になってくれ」と要求され、その言葉に従った。女子学生が衣服を持ち去ってしまったため、そのままの姿で居ざるを得なくなり、騒動になったという。
◆彼がその女子学生のことを愛していたのはわかる。「恋は盲目」とはいうけれど、のめり込み過ぎるのは、やはりよくない。「恋はより多く愛したほうが敗者になる」とは、作家の塩野七生の言葉だ。
◆投資の教えに「銘柄に惚れるな」というのがある。ある企業の製品やサービスが好きだからという理由だけで、安直に投資するのは待ったほうがいい。いくら「良い商品」を作ったり売ったりしても、それが利益に結び付き株価上昇の要因になるとは限らない。もっと冷静にいろいろな角度から分析する必要があるのだが、いったん好きになってしまうと、なかなか冷静な判断ができないものである。
◆それはプロの世界でも同じである。アナリストは自分が担当する銘柄と"恋におちる"傾向があることが報告されている。頻繁に企業を訪問するうちにIR担当者、財務担当役員、場合によっては社長と顔なじみになればなるほど評価が甘くなるのは人情というものだろう。人情からばかりではない。そのアナリストが所属する証券会社の投資銀行部門と企業との関係を考えれば、アナリストは否定的なレポートは書けない。調査部門と投資銀行部門の分離・独立は古くて新しい問題である。
◆個人投資家はどうすればいいだろう。プロのアナリストの見解にすら、ある程度のバイアスがかかっているとしたら何を信じたらよいのだろう。その答えは、結局自分を信じよ、である。件の非常勤講師は騒ぎを起こしたことを謝罪し、こうコメントした。「皆さんには、自分の信頼すること、信じることを貫き通して欲しいと思います」。そして最後にこう付け加えた。「そのとき少しの冷静さも忘れないようにしてください」。
◆冷静さが大事であると身をもって知った男の言葉だけに説得力が...ないか、やっぱり。塩野七生の言葉をもじれば、「恋はより多く愛したほうが裸になる」だ。株式投資も盲目的におこなっていると「丸裸」になるおそれがあるので、ご注意を!
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆